全てが順調だった。
それは、途中で幾度となく躓かなかったわけではないけれど。
それでもそれら全ては解決されてゆき、現状では特に問題は無く。
全ては、順調だった。


 天使(みつかい)は、人間のように1日の周期で過ごしていない。
人間のように頻繁に休む必要がないし、色々な生活上の雑事に気を取られ
なくてもよいからだ。
仕事の内容や個々の能力で違うそうだが、大概が7日を周期にして6日働
くと1日休む、という感じだそうだ。この周期は以前に神が纏めて仕事を
された時に“気合が尽きた”のを元にしているそうで、別に6日ずっと務
めて最後に1日休むでなくてもよく、3日動いて1日休んでまた3日とか
・・・まあ、仕事さえ完遂していれば個々の状況に合わせて左右していい
らしい。ただ、これも更に応相談の変動が利くそうなので(纏めて作業し
て纏めて休むとか)あくまでこれは目安ということだ。
大きな仕事をしている天使のうちには数ヶ月以上ずっと働き続けるかたも
いるそうで、その場合は後で纏まった休みが貰えるとか。
まあ、人間と違って大概の天使には“休憩”という感覚はあっても“怠け
る”という意識が希薄なので、個々対応でこういう状態でも一向に問題が
無いのだろう。
 天で一人きりの人間である私はといえば。
書記官の仕事の前準備を始めた時に、私の予定を決めようと相談していた
神とラジエルに、
「これからずっと仕事するんだから、急いだり慌てたりしないでいいんだ
よ」
「朝昼晩の3分割目安でどうだ。
休憩はきっちり取れ。・・ん?食事(メシ)って3回でいいのか?」
ときちんと休むようにと念押しされているので、提案どおりの予定を守っ
て過ごしている。
此処に来た直ぐ後に神が私の構造を“天界仕様”に半分ほど造り変えられ
たそうなので、やろうと思えば人間からみれば相当の長時間働き続けるこ
とも可能なのだそうだが。
身体的に一部変わっていても、私の自己認識と構成が“人間”である以上、
それまでの記憶や習慣や感覚もあり、それを崩す行動を続けると気付かず
に無理をする可能性があるらしい。
以前ほどの量ではないが天使と違って食事をとる必要もあり、それと適度
な睡眠をと。
くれぐれも無茶はするなとふたり(?)がかりで心配されては、片方が神で
あり片方が上司で師匠であるということを差し引いても逆らうわけにはい
かない。
私は、私に見合った周期の生活と徐々に滞りなくなってゆく仕事の出来に
安堵し、そしてそれにささやかな自信のようなものと十分な満足を得てい
た。


 ・・・しかし。
3年程が経ち、ほぼ普段の生活と仕事で困る事がなくなってからふと。
私は、別の意味で何かに不足していることに気がついた。
それは、変化だ。

 天界では、“地上”と同じように夜が明けて陽が暮れて、時折には曇りも
あり雨も降る。
その時々でそれらはとても様々に美しく、曇りの時でも“地上”では灰色や
黒になることが多く気落ちや時には脅威の前触れでもあるそれはとても色
とりどりで様相も不安を招くようなことは無い。
雨は、殆ど汚れる原因など無い天界を時折洗い流すためのものだそうで、
“地上”の雨のように濡れて寒くなったり衣服を重く濡らして不快にしたりも
しない。涼やかに優しく降りそそぎ、適度に暖かい。
私が子供だったなら、そんな雨の日には気分が乗れば喜んで外で駆け回っ
たかもしれないが、流石に今の私がそうするわけにはいかない。
だから、時折にはなんとなく浮き立つ気持ちを抑えながら、雨の日の休日
は飽いたら窓の外を眺めながら本を読んだりする。

 風景は、建物のそばの中庭などのやや人工的な配置のもの以外は、場所
ごとに違う様相の自然を置いたような不思議な変化に富んでいる。
天界の木々や草花は人里のもののように手入れや剪定をしてあるわけでは
ないけどそのままでどれも美しい。自然そのものの最も美しい瞬間のいず
れかを永遠に留めているようなものなのだろう。
 その美しさに度々見惚れるのとは別に、中庭を通りかかるとふと、土い
じりの出来る小さな庭があったらな、とも思ったりもするのだが。
天界の美しい完成された草木でなくとも、そもそも“地上”のそれらを扱う
能力のさしてない私が迂闊に手を出したら、昔、思いつきで小さな植木に
手を入れてみようとした時になにかとても考えなしだったらしく、近くに居
た彼女にピシリと叱られた記憶が蘇る。
・・・やっぱり、止めておいたほうがいいだろう。


 そんなことを時折思う日々の合間に、ふと。
黒と薄い赤の印象が脳裏を過ぎる。
・・・たった少しの間。
二年以上前に会った記憶。

 二度目の訪問の後、かれはまだ暫く天界に滞在していたようだったが。
ちらと通りすがりに手を振ってみせたり、気付くと遠めにこちらを眺めた
りしていたきり、ふつりと姿を見掛けなくなった。
かれは時間を旅していて中々戻らないそうなので、また旅に出てしまった
のだろう。
立場や役割は違うのだが、かれとラジエルは神に次ぐ重要な位置に居るら
しい。ラジエルいわく、「“あれ”が右腕なら、私が左腕だな」と。
そんな位置にいて滅多に居ないかたに会えたのだから、それだけでも幸運
だとは思うのだが。
また会って話がしてみたい、というのは間違いなく私の“我儘”なのだろ
う。
・・・ただ。
それでも私はまるで夢でもみるように。
いつの間にか窓辺に座っているあの姿と、声を。
平穏に吹き込んで揺らしてくれる風のように、遠い憧憬のように。
ふと何かの間に間に、思い返していた。



***



 「・・ふー」
滑らかな感触の心地良い水が、水面から岸に上がった私の肌を滑り落ちて
柔らかな青草の下に消えてゆく。
鍛錬によく使っている小さな森の中の空き地は、すぐそばに綺麗な水を湛
えた簡単に溺れることも無い適度な深さと広さの池があって、気分転換に
泳ぐのに重宝している。池に住んでいる魚などの生き物ももう私を見慣れ
ていて驚いたりせず適当に避けてくれたり、逆に寄ってきて遊んだりする
のが少し楽しい。

 天界には汚れの原因となるものが非常に少ないので、天使は汚れを落と
したりする必要は殆ど無いそうだが、私は人間の形態を留めているのでか
れらのいう“殻”・・つまり肉体にはある程度汚れが付着する。
もっとも、構造変化によって“地上”のいきものが有する摂取→排出の過程
がほぼ呼吸器官と・・含めるなら血液循環系にしか残っていないので、以
前の状態のように放っておいたらどんどん汚れていって・・・というような
状態には簡単にはならないのだが。
髪は多少伸びるが、髭とか爪は伸びてくる気配すら見せない。無問題だ
(まあ、髭だらけの天使というのも私は聞いた事はないが)。
成分変化によるものなのか、汗やそのほかから生じる悪い匂いも無い。
それでも天使に比べたら“汚れる”ものだし、なんとなく放置しておくと
重いように感じることもあるので、身だしなみの一環として沐浴は欠かさ
ないようにしている。
ただ、泳ぐのはそれとは違って遊びを兼ねた運動だ。
私の“殻”の見た目は固定されていて天界にやってきた時と殆ど変わらな
いので、鍛錬しても目立った変化が見られるわけではないのだが。内面的
には非常に重要だった。
以前の状態では、私の身体も肉体とそれを支えているというエーテルの比
重が多かったのだが、構造変化によってその半分ほどが“気”体に近くな
っている。つまり天使を形作っているのと同様の力・・エネルギーの要素
のひとつだ。正確にはかれらのうちでは“血液”の役をしているものに近
いそうなのだが。
殻に頼って安定している状態と違い、気の比重が多い分、きちんとそれを
認識して無意識にでも固着化させられるようにならないと、時折均衡が揺
らいでしまうのだ。
鍛錬を始めたきっかけはそれとは違うのだが、大きく身体を動かすとはっ
きりしたその問題を解決するのにも役立ったので一石二鳥というものでは
ないだろうか。

 天使の構造は、ラジエルに聞いた限りでは“地上”のいきものとは全く違
う。身体を形作るものはエネルギーであり、そのうちに“かたち”の無いア
ストラル・・魂を宿している。
見た目は時折背に現す翼の有無を除けばひとによく似た姿をしていても、
かれらの構成条件はひととは根本が違うのだ。
身体を維持する程度のエネルギーは主に大気を呼吸することで補充でき、
それと神から分けられる“存在を支える力”が蓄積されてアストラルに力
を与えているのだと。
「“地上”のいきものは複雑な構造をしているからな。
少しでもどこかが損なわれたら大変なことになる。
その点、殆どエネルギーで出来ている天使は単純だ。力を補充しさえすれ
ば大概の回復は出来る」
見た目でいえば、人間同様に骨格と内臓や筋肉や皮膚がある、といわれて
も一切疑問には思わないのだけれど。
触ってみるか?と差し出された黒い手を好奇心と不思議さには勝てずにひ
としきりぺたりとしてみたり、つついてみたりしたのだが。ナマモノの気
配が薄い、ということ以外では柔らかな適度な弾力と骨のように感じる堅
さが奥にあって人間の手とそれほど違うものだとは思えなかった。
「このような形状なのかはどうしてかは・・残念ながら私も知らないが」
ラジエルが私が気が済んだのを見て取って、引いた手を机の上に戻しなが
ら言う。
「まあ、何らかの都合か思いつきがあったんだろう。
 あと、はっきりしているのは人間と似た構造をしている“口腔”辺りは
発音するためのものだろうということだ」
かれらの内にある具体的に形作られている内臓らしいものは、口腔から咽
喉にかけてと胃のようなものの二つだけだそうだ。
呼吸は身体全体でしているから鼻腔や肺は無いし、普段人間のような食事
をするわけではないので、胃っぽい位置にあるものは特に何かを食べるた
めのものではないのかもしれない。これも発音の補助のためのものなのだ
ろうか。
構造変化した私は違和感を持たないようにと“食べた”ということを生存
本能に認識させるために胃は引き続き食事のために存在しているが、元の
ように胃で消化してほかの部分に送るのではなく、摂取したもの全てを活
動用のエネルギーとして変換してしまう。
天使もたまに人間のような飲食物を口にするようだが、胃の位置にあるも
のはこの時一旦落とし込む場所として仮に使われているのかもしれない。
「我々はいうなれば“人型の鳥”だからな。
これは“歌う”ためのものだ」
「歌、というとあの」
かれらは時々、私の知らない“音”を口にすることがある。
大概はごく短く、人間のいう歌のようにそう長いものは聴いたことがない
のだが、それはきっと“歌”だと思う。
言葉だとは思うのだが天界語とは違う。
ラジエルの掌に現れて変わる紋様も“それ”だそうなので、天界の機構や
天使の仕事に使われるかれらにしか扱えないものなのだろうと理解してい
る。
「ああ、そうだ。
残念だが、天使ではないおまえには教えられないからな」
口頭や音声で説明されたところで、扱う感覚そのものから私の能力の範疇
には無い上に、私の喉の構造では発音が出来ない。
これが教えられれば少しばかり私の手伝いをして貰うことも不可能ではな
いんだが、とどうやら本気で残念そうな気配で口にした師匠を前に。
私は少しだけ可笑しくなって、笑った。



 少し緩く余裕のあるズボンを履いたままで軽く絞ると、純粋な水の要素
に近い成分で出来ている池の水はすぐに布から抜けていった。もうほんの
少しで完全に乾くだろう。
樹の根元に長衣と一緒に置いてあった“時計”を取り上げて時刻を確認す
る。
これは、円盤状の金属らしいもので出来た掌に載る程の形状のもので、二
つに合わせた片側が蓋になっていて開くと月と太陽を象った繊細な意匠の
文字盤がある。懐中時計、というらしい。
時刻を見る機能だけではなく、私の周期に合わせた予定の区切りを知らせ
る機能がついていて、書記官就任時に神から私専用の羽ペンと一緒にいた
だいたものだ。自分の用事に合わせた時刻を知らせることも可能なのだが、
今のところ殆ど使う機会がない。
今日は7日間の周期の7日目で休日なので、仕事の予定は気にしなくても
いい。午前中が終わるにはまだ少し間がある。
時計を長衣の物入れにしまい、これから鍛錬でもするか、それとも今日は
陽当たりも良いいい天気だし携帯用に昼食を用意して散策でもしようかと
ひとつのんびりと伸びをすると。
「何を始めたんだ? イーノック」
聞き覚えはあるが、現実に聞こえたのか一瞬耳を疑う声が降って来た。

 私が持ち物を根元に置いていた大きな樹の高い枝の上に、見覚えのある
黒い服の姿が枝にとまる鳥のように危なげなく腰掛けている。
・・天使は神の鳥なので不思議でもなんでもないのだが。
ひとによく似た姿をしていると、一瞬錯覚する。
「・・・ルシフェル!」
記憶に間違いが無ければ多分、あれから5年ほど経っている。
場所や私の様子が違う以外、かれには全く変わった様子は見られなかった。
「久し振りだな!」
いつかまた会えたら、とは思っていたのだが正直期待はしていなかったの
で、本当に素直に嬉しい。
その気持ちを込めて、見上げた明るい緑の葉陰の姿に笑いかけるとかれは
少しだけ驚いたようだった。
「・・・私に会いたかったのか?」
頷きで返して降りてこないかと尋ねると、小首を傾げて思案する様子をし
てから、少しだけ手前に浮くように後ろ手に枝を押したと思うと、空中を
真っ直ぐ滑り降りるようにしてそのまま身軽く、とんと草の上に降り立っ
た。足元の草も、堅そうな底のある革靴に落下の勢いで踏みつけられたよ
うにはとても見えない。
思わず感嘆の眼差しを送るが、天使であるかれにはあたりまえのことなの
だろう。些細も一連の動きには頓着する様子もなく、辺りに視線を巡らせ
ると草の上に張り出た大き目の根の上に腰を下ろした。
「・・・で。
神が、おまえが何かを始めたとか言っていたんだが。
泳ぎのことか?」
「鍛錬のこと、だろうか?
なら、2年ほど前からやっている。半分は自己流だが」
「鍛錬?」
「・・・・武術訓練、で通じるのか?」
「・・・ああ」
かれは納得したように音を返す。
「おまえ、“書記官”なのに。
なんでまた、そんなことまで始めたんだ」
不思議そうにしたかれに、経緯を説明することにした。


 3年と少し程経って此処での生活に慣れ、仕事も滞りなくなった頃。
日常に気分転換出来るものを探していた時に、それを見掛けた。
中級の天使達が数人集まって、広場のような場所で組になって色々な動作
をしていた。よく見る長衣ではなく、色は白いが袖無しの襟の開いた短衣
を腰帯で結んで、下には緩いとまではいかない加減の余裕のある真っ直ぐ
な造りの足首までのズボンを履いている。
眺めていると、競技のように一定の規定がある勝負のようだったが内容は
武術訓練の一種だろう。
・・・ただし、天使同士のものなので人間のようにただ身体の動きや素手
や武器の扱い等だけではなく、術や変化(へんげ)も含む非常に複雑なもの
のようだったが。相手を決めて規定に則ってやっているためなのか、それ
はしばしばただの動きですらとても美しく見えた。
話に聞く戦舞というものがこういうものか?と思いながら眺め続けている
と、休憩中なのか観戦していたひとりがこちらに気がついた。
とんと地を蹴ったと思うと、ふわりと一瞬で広場の端から少し離れた場所
に居た私のそばに舞い降りて顔を覗き込む。
「きみは・・・ああ、<イーノック>か。
興味があるなら、一緒に遊ばないか?」
かれらにとってはこれも実用を兼ねた一種の遊びなのだろう。
といっても、人間が普通にあれに混ざったらただでは済まない。
「あ・・いえ。
私は人間なので、混ざっても相手にならないと思うのです。
有難う御座います、誘って下さって」
大概の天使は私に余り興味を持たないが、遣り取りする機会があればかれ
ら独特の博愛らしい好意を示してくれる。
悪気は一切無く、大概はこの顔を覗き込んでいるかれのように無邪気なの
だが、人間とかれらの差まで事前に考慮はしてくれない。
そういう意味では、一応“同僚”として扱われているのだとは思うが。
「そうか・・・。
そういえばそうだな。残念だね」
またほかのことで機会があれば、と手を振ってくれるかれに改めて礼をし
てその場を立ち去ってから、ふと、思った。
あれをそのままやるのは不可能だが、天使たちのように訓練として考える
のなら私にも人間としてやりようがあるのではないか、と。

 私がもう殆ど天界に慣れていたその頃には珍しく、何から尋ねればいい
のかという様子で机の脇に立ったので、ラジエルはどうしたのかと思った
らしい。
「落ち着け。
まあとりあえず座れ」
私用の予備の椅子を出してくれると、座るように促した。
「で。
とりあえず何を見て、何を考えた?」
大変正確な質問の仕方だった。
見たものと、思ったことを話してから続けて尋ねる。
「あの・・・。ひとつ不思議なのですが。
天界は平穏な様子だし、“地上”に貴方がたが“群れ”で直接干渉すると
も思えません。勿論、個々での干渉程度や、ほかに万が一という事態も
あるのでしょうが・・。
かれらの“訓練”はなんのためのものですか?」
ラジエルは、直ぐには答えなかった。
「暇な天使の遊びの一種だ、とはおまえは思わないんだな」
頷きで答える。
天使のレベルでは些細な遊びなのかもしれないが、かれらは遊びなりに真
剣に訓練している様子だったし、まあそもそも人間からみたらあれの一部
でも十分な脅威だ。
考えすぎだったのか、何か聞いてはいけない部類の質問だったのか、と思
って少々構えていると、ラジエルが口を開いた。
「いや、“人間”だからむしろ分かるのかもしれないな。
あのへんの天使(れんちゅう)は大概が真面目な遊びのひとつだとしか思っ
ていないと思うが、あれは本物の戦闘訓練だよ」
理由はいえないが昔に物凄く迂闊なトラブルがあってな、というところで
締め括られたので恐らくそれ以上は私には話せないことなのだろう。
納得してから、改めて自分の希望を話してみる。
 机に関わるもの以外で日常に変化をつけるなにかを探していたこと。
出来れば真面目にやりこめるようなものであれば言うことはなく。
人間である自分はあれほどのことはとても出来ないが、運動の一種として
空き時間に鍛錬を試みても構わないだろうかと。
あの訓練が実際に必要になるような状況になったら、およそ何か出来るこ
とがあるとは思えないのだが、可能なら護身くらいは・・とか。
ラジエルはふむ、と言いながらいつもの表情のわかりにくい顔(神は“ポー
カーフェイス”という名称で呼ばれていた)で聞いていたが、私の言葉が止
まると軽く片手を机上に滑らせた。
「そうだな。
今のおまえは身体維持を積極的にする必須性はないだろうが、物理主体の
感覚のいきものは動作を行うこと自体も重要だったか」
手の下で掌の紋様が光る気配がし、暫く経ってからかれは指先に通常のも
のよりも幾分小ぶりの“キューブ”を載せてこちらに差し出した。
ただし、通常の“キューブ”は白いがこれは黒い。
艶のない不思議な表面を気にしながら受け取ると、ラジエルは口を開いて
あっさりと告げる。
「神(あれ)に許可は取った。
仕事の前後と休憩時間を鍛錬用込みで調整してやる。
天使の訓練の見学も、邪魔しないように全体に言い渡しておいたから好き
なときに好きなようにしていい。内容によって参加してみるかも好きにし
ろ。
その“キューブ”の中には、人間に可能な素手鍛錬用の基本動作から実用
動作までの例が一通り入っている。必要に応じて付け加えてやるから要る
なら言え。資料(データ)上のものなら質問も受け付けてやる。
 で。もしも向いてないと思って止めたい時も遠慮なく言え」
区切り以外、殆ど途切れなく続けられた言葉を漸く飲み込んで。
「え?」
と私は思わず聞き返した。
ラジエルの仕事が人間からすれば速いなんてレベルではないことはもう理
解しているが、私が思いつきで相談したばかりの事をもうそこまで?
思わず、本当に良いのだろうかと聞き返そうとしたが。
ラジエルが珍しく、“楽しそう”な表情を浮かべていることに気がついた
ので。もしかすると、これはこれで常時仕事三昧のかれなりの“遊び”の
一種なのかと気がついて。
有難く、お言葉に甘えることにした。

 「・・・まあ、そういうことで」
経緯を大雑把に説明し終えた私に、ルシフェルは少しだけ呆れた様に小さ
く溜息をついた。
「・・・・ラジエル、おまえもか」
「?」
「いや・・
神もラジエルも思いつきで・・・・・・
ああ、いや私も、か」
今度は自嘲するように額に手をやって溜息をつくと、かれは少しだけ沈ん
だように見えた。
・・・・どうしたのだろう。
私はかれから少しだけ離れた草の上に座っていたので、ひと一人分だけ膝
と掌で移動して座りなおしてから様子を窺う。
伏せていた瞳がその動きを目に留めたのか、顔が上がる。
「・・・なんだ」
「いや・・。
何か、気に障ることを言ってしまったのかと・・思って」
すまない、と謝意を表すと、薄く赤を刷いた茶色の眸が驚いたように瞬い
た。何度見ても、この色は髪と衣服の黒同様に印象的だ。
「・・・・。
いや、おまえのせいじゃ、ない」
かれは、見た目は人間で言えば成人男性に見えるし、細身だが身長は私と
殆ど変わらない。容貌は柔らかめだが端正で、響きの良い声にも外見にも
可愛らしいとか頼りなさそうな要素は特に無いのだが。
その時の不思議な笑みは、どこか酷く儚い遠いものを思わせた。
ただそれは、一瞬で消えてまた掴みどころの無い表情に戻る。
「・・・ああ、そうだ。
神に、おまえに会ったら聞いておけと言われた事があったんだったな」
気分を切り替えたらしいルシフェルは、んー、と思い出すように思案して
から口を開く。
「おまえ、これまでの間に大体の構造変化による差は理解しているか?」
少しだけ考えてから頷いて答える。
「自覚できている分は、大概ラジエルに質問して必要な箇所は神にも説明
していただいた。その範囲においては問題ないと思う」
「そうか」
了承を頷きで返したルシフェルは更に言葉を続けた。
「では、繁殖に関する機能が凍結されていることも理解しているか?」
一瞬、天界語の通常会話の音としては聞きなれない言葉に思考が遅れたが。
間を置いて頷く。
「・・・なんとなくだが、まあ変化はわかっているつもりだ。
此処で生活する分には、そのほかのものよりも不整合を起こす可能性があ
るだろうし」
天使は人間の男性に似た姿をとっていることが多いが、実際には人間のよ
うな性別は無い。中性的な姿のものはそれに次いで多く、女性に似た姿を
とっている天使はいないことはないが少数だ。
まあ、一般の天使との感覚の“共通性”の低さからして、元々相当鈍いほ
うである私がそうそう反応することは無いとは思うのだが、天使は総じて
見た目は平均以上に美しい。
だが、神を第一とするかれらに“地上”のいきものの“恋愛”は“わからない”
可能性が高い。私と逆に、人間の集落の中に堕天使ではない天使がひとり
暮らさなくてはならなくなったと考えると少々頭痛がする事態になりそうだ。
更にもっと具体的な関連事項を連想すれば尚更だ。
「・・・成程。
神がおまえを“すごく落ち着いている”と評していたのが何となく分かっ
た。理性的だな。
統御数値が平均の数倍あるだけのことはある」
くるり、と平静な表情の瞳が動く。
「人間の男はこういう関連の話の時に、プライドがどうのとか、安定性を
欠いたりと騒がしいのを目にしたことがあったんでな。
神が、自分が質問したのでは“問題ないです”しか返せないだろうという
ことで、私に役が回ってきたんだが」
「いや・・・。
そんなに落ち着いているわけではなく、この辺りとか他の変化は時間があ
ったから徐々に認識して大丈夫だっただけだと思う」
・・・・恋愛のことについては、いつかの言葉を違えて“地上”に残して来て
しまった彼女がずっとその場所を占めているから、きっと、当分そんな事
態は起こりそうもないのだけれど。
「まあ、身体的な機能凍結は本能を抑えるための対処だ。
・・もしも必要があれば、神がまたどうにかしてくれるさ」
おまえが違和感を持たないように外見自体はいじってないそうだからな、
とかれは相変わらずさらりと口にする。
人間が口にしたら結構生々しい話題のような気がするが、神の代理で尋ね
ていると告げられたせいか、かれの平静な声音のせいか言い回しか、元々
ある程度は自覚していたせいもあるのか、それ程気にならなかった。
「じゃ、この話はこれで終わりだ。
改めて質問があれば、ラジエルか、あいつを通して神に聞いてくれ」
頷きで了承を示す。
 これで・・・三度しかまともに対面していない相手と、こんな話題を会
話しているというのも思えば妙な状況だ。
まあそもそも全てがラジエルの言っていた通り変則的(イレギュラー)なの
だから、今更だろうか。



 神の頼まれごとを片付けてしまうと、ルシフェルは急にうって変わって
表情を何か思いついたかのように楽しそうなものに変えた。
「・・・そうだ。
おまえ、今日はまだ暇なのか?」
「今日は休みの日で、この後の予定はまだ決まっていないが」
「そうか。
じゃ、私もおまえの“気分転換”とラジエルの“遊び”に乗ってやろう」
先程何かにこだわっていた様子だったことは微塵も見せずに、にこりと明
るく笑う。
「“鍛錬”なんだろう? 私はやったことがないが」
「貴方は、そういうことはしないのか?」
かれはとても身ごなしがいいので、その気になれば強そうな気もするのだ
が。専任の仕事があるし、戦ったりはしないのだろうか。
私の疑問を察したのだろう。ひとつ笑って声が言い足す。
「・・・私には、それは必要ないからな。
もし必要があれば、“モード”を切り替えるだけだ。
・・あ、モードが分からないか? まあ“仕様”だ。
つまり、私には元から“通常”と“戦闘”向けの切り替え用の能力が備わ
っているということだな」
右手の人差し指を立てて、その掌をくるりと回して見せる。
「それは・・便利なんだな」
大天使であるかれのそれのレベルは見当がつかないが、まあラジエルの話
からすればそれは活用される日が来ないほうがよいというものなんだろう。
「まあ、“通常”モードでおまえに合わせて相手してやるから。
心配するな」
くすりと小さく笑って立ち上がる。
「あ・・いや、その。
でも、普段ひとりでやっているし、まだなんとか形になってきた程度で。
貴方に拳を向けるのは一寸・・・・抵抗が」
 ラジエルが不干渉令を出してくれたので、私は普段は一人でこういう場
所で基本動作や応用を自分で納得できるまで繰り返したり、鍛錬以外の走
ったり泳いだり木をのぼったり重いものを持ち上げてみたりと、此処で可
能な運動を色々と試みたりしていて。
そして、たまに天使たちの訓練の様子を参考のために見に行ってみたりも
する。
その何度目かの時、以前声をかけてくれた天使がもう一度やってきて、気
がむいたら“人間に可能な条件”でなら一緒に出来るのであれば参加して
みないか?と尋ねられた。
不干渉令の範囲からは外れているが、かれは最初に気付いて声をかけてく
れたことといい、ごく普通の天使だが好奇心がやや高いようだ。
相変わらず悪気は一切なく、ほかの天使とも相談してあるから心配ないよ
と無邪気に言ってくれるので、少々思案してからごくたまになら、という
事で申し出を受けることにした。
天界語学習や書記仕事のようにラジエルのチェックを受けるわけにはいか
ないのだ。出来の判定基準や実際に役立つかどうかを測る場はあったほう
がいいだろう。
ただ、当然かれらにとってはかなり大きな制限条項を意識しながらやって
貰うことになるので、本当にごくたまに、ということでお願いした。
かれらにとっては少々目先の変わった遊びになるのか“同僚”への好意の
一環なのか、今のところは特に問題は起きていない。
まあ、まだかれらにきちんと相手して貰えるほどの段階ではないので、か
れらからみれば地面の上で転がっている子犬を構っている程度の感覚だろ
う。中級の天使たちは感情の起伏が余り無い代わりに大方が非常に安定し
ていて、“飽きる”という感覚には殆ど縁が無いらしい。
それでも、いつまでもその状態では私のほうが改めて申し訳なくなりそう
で。出来れば少しづつはマシになっていければと思う。
まあつまり、今現在はまだそういう状態なわけなのだが。
相手になるかどうかというレベルではないということを置いておいても、
目の前にいるかれは私にとっては闘う対象としては考えられなかった。
出会った状況と経緯のせいだろうか。
 躊躇して口篭った私に、池の別の方向に広がる開けた場所に向けて踏み
出したかれが半身で振り返る。
「大丈夫だ。
“鬼ごっこ”だからな。私を攻撃するわけじゃない」
と。
 話を聞くと、かれの想定するものは追いかけっこのようなものだった。
ただし、ルシフェルは、人間の補助なしで可能な動作範囲だが空中にも移
動するのでそう易い事ではないようだ。
「・・・ふふ。
私を“掴まえた”らおまえの勝ちだ」
まあ、難しいだろうがな。と。

 ・・・・・・・。
予想はしてはいたが、本当に難しかった。
かれは確かに天使のように人の手の届かない位置に跳ぶこともなく、殆ど
は私と同じ地の上に足をつけているのだが。
ひらりと。
また、指先を僅かな差で擦り抜けてそれは届かない。
 では始めるか、という言葉を聞いた時は、どうやって掴んだら無礼にな
らないだろうかとかも一応考えてみたりもしたのだが。かれの動きを追っ
たほんの少しの間に、そんなことを一時的にでも考えた私は全く愚かだと
心底思った。
指先がかれの下腕に届くかと思い、もうそれはそこにはない。
伸ばした手の先に、軽く跳んだかれの足先がみえて。でも、掴む仕草の掌
は完全に空を切る。
追いついたと思っても躱され、動く先を予測してみても半分は外れ、半分
は当たっていても手が届かない。
ズボンと同じ確りした布地の上着は前を留めていないので、時折空気を含
むように少し浮き上がる。その背の端にすら届かない。
時々からかうように背後で笑う風な気配がして振り向くと、かれはもうそ
こには居ないのだ。
速い。
「・・・・ズルはしていないからな。
ちゃんと手加減しているぞ?」
膝に両手をつき大きく息をついて立ち止まった私に気付いたのか、少し離
れた先でかれも腰に片手を当てて立ち止まる。
かれは一切息を切らす様子も無い。まあ当然だが。
「・・・・ああ、わかっている」
私が追いつけないだけだ。
「ギブアップするか?
まだもう少し相手してやってもいいが」
“ギブアップ”という言葉の意味は知らなかったが、もう止めるかと尋か
れたことはわかった。
バカだとは思うのだが、それでもこのまま諦めたくない。
・・・・せめて、掴めなくても指先が服の端にでも触れられれば。
理想が低いような気もするが、現実的な段階は必要だ。
しかしそれとても、叶うものなら、の有様だけれど。
「・・・いや。
もう少しだけ、お願いする」
諦めないことを選択した私に、ふとかれは小さく音も無く笑った。
からかう気配ではなく。
楽しそうなような、穏やかに優しいような、それだけでもないような。
それから、ふ、と視線をこちらに向けて。にっ、とからかうように口元が
笑みを刻む。眸の赤が僅かに色を増した。
「おまえはやっぱり・・面白いな。
よし、もう一度。始めようか」

 ・・・・・それはまあ、いうなれば事故だ。
故意ではない。といっても、元々掴まえようと試みていたわけだから、意
図的ではないと完全に否定するわけにもいかないのだが。
「さて、そろそろやめ・・・」
というかれの声が耳に入っていなかったというわけでもない。
ただ単に、全てのタイミングが合致してしまっただけだ。多分。
 終了の合図を告げようとしたかれの口は途中で止まり、きょとんとした
ような表情が私を見ている。
私の両腕は中空に少し浮いていたかれのほうに向かって伸ばされ、両方の
手は丁度かれの上半身と下半身の境目を挟んで掴む格好になっていた。
「お?」
「・・・・あ」
なにしろ半ば意地だったので、私も諦めたくない気分と、本当に紙一重で
届かない状態に段々となんとかしてやるというような気になって来ていて。
中空に見えたかれに、もう殆ど計算とか予測とかそういうものを捨てて手
を伸ばしたのだ。
丁度その時、そろそろ飽きたかれが浮かんだまま動きを止めたのは、勿論
起こり得る予測の範疇内には、無い。
上着の下に着ている首元までを覆う、ほかの服同様に黒い布の服はとても
細かく均一に目が詰んでいて柔らかい。その布越しに指先に、細いが確り
した腰から続く腹部の側面の輪郭とひとの皮膚とほぼ変わりない感触が少
しぼんやりと伝わる。
「・・・・え、あ。その」
すまない、と無礼を詫びようとしたのだが。
かれの左手が、ぽんと軽く私の右腕の上に乗せられて声が後に続く。
「言いかけだったが、もう終わりだからな?
おまえの負けだぞ」
“浮く”状態を止めたかれの重みが、私の掌の中に落ちてきて腕に伝わる。
「・・・・・」
「?」
固まっている私を見て、少し面白そうに笑みを浮かべていたかれが不思議
そうにした。
「どうした?」
中級の天使たちの純化されたような無邪気とは違う、どこか人間の子供の
ような色合いの純真をその瞳に重ねてしまったせいなのか。
徐々に遠くなりつつある“地上”の記憶にある重みを、唐突に思い出したせ
いか。
私は、思ったことをそのまま、何も考えずに口にした。
「・・・貴方は大きいのに、子供みたいに軽いな」
見た目から人間の場合だとすれば類推される重さと、手と腕に認識してい
る重さが釣り合わないのだ。軽い。
これなら天使だということを差し引いても身軽いのはあたりまえかもしれ
ないな、と一人内心で納得していたのだが、かれのほうはそれを聞いてぴ
たりと動きを止めていた。
「・・・・・・」
「・・・ルシフェル?」
端正な容姿をしているだけに、動きを完全に止められると生きている気配
が無ければ一瞬人形と錯覚しそうだ。
その姿勢のまま、ふと不安になって呼びかけたが。
「・・・・・・・・・・」
ふっと、その顔が無表情になったと思うと、ぱしん!と軽く高い音が響い
て、泳いだ後に上半身裸のままだった私のむきだしの右腕の上にうっすら
と赤い手形が記されていた。
ルシフェルが乗せていた手を払って叩いたのだ。
それほどの痛みではないのでやっぱり手加減はしてくれたのだろうけど。
反射的に支えていたのが離れかけた私の手を擦り抜けると、少しだけ距離
をおいた土の上に降りたかれは今度ははっきりと怒った表情でこちらを睨
んだ。
「・・軽いのと、子供かどうかは関係ないだろう」
どうやら、子供扱いされたと思って機嫌を損ねてしまったようだ。
慌てて、一歩歩み寄る。
「いや・・その、失言だったかもしれないが。
丁度・・・、記憶にある重さに近かったから・・・・。
気を悪くさせてしまって、すまない」
精一杯の謝意を込めて語りかけると、かれは少し思案する様子の後、表情を
緩めた。
「・・・ああ。
そうだったな。
 まあ、それなら仕方ないか。
そもそも、おまえは天使の目方など知らないだろうし」
平静に戻った表情は、また余り掴みどころがない。
ただ、かれが中級以下の天使たちとは全く違うという事だけは私にもなんと
なく理解できた。
ひとに似た遣り取りが出来る神やラジエルともまた、どこかが違うような。
「・・・すまない」
変化をもたらしてくれるかれにまた会えるかも、という夢を自分の迂闊さで
失うというのは少々本気でつらい。
落ち込みそうになった私に、もう一度声が届く。
「・・・・。
そんなに悄気なくてもいい。
・・・もう、怒ってない」
内容と裏腹に、微妙な間があった赦す言葉はまだかれが引っ掛かっていそう
な危惧を覚えさせたが。
それでも、かれが私を拒否していないことは分かったので。
「・・・・。
有難う、ルシフェル。ごめん」
素直にもう一度謝ると、かれは一つ溜息をついて、それから笑った。
「・・・・・。
おまえは本当に、なんというか・・バカだな。
まあいい。
・・・おまえ、私にまた会いたいか?」
向けられた眼差しに、急いで頷く。
また何年も後のことなのかもしれないが、それが叶うのであれば。
「・・・気が向いたら、また来てやる」
それだけをはっきりと告げたかれは、次の瞬間、もうどこにも居なかった。
一応きょろきょろと、周囲やかれの居た樹の上も梢を抜けた先の空も見渡し
てはみたが。
「・・・・。
もう行ってしまったのか?」
独り言のように呟いてみたが、当然返事は返らない。
でも、いつか。
 そうだな、また、会えるなら。
「ルシフェル、またな!」
どこに向けたらいいのかわからなかったので、空に向かって手を振った。


 そして、当時の私は見た目では分からない天使の年齢など気にした事も無
く。未だに、ルシフェルが“一番最初の天使”であることなども全く知らな
かったので。
・・・かれが、創り手であり親しい身内でも相方でもある神以外の年上の存
在を持たず。
一番齢の近いラジエルもだが、それ以外の天使もかれを子供扱いなどする事
もありえず。
 つまり、“神以外に年下扱いをされたことがなかった”(※“地上”では見た
目が若いのでそういうこともあるのだろうが、そもそもその人間が相手を天
使だと認識していなければ範疇外)ルシフェルに対して、天界に属している
上に、かれと比べたらほんの僅かしか生きていない人間の私が、なんの他意
もなく率直に“子供みたいだ”と評したのは・・・・かれにとってはかなり
の衝撃だったらしい。

 結局。
人間にとっては短くもない時間が空くことも多かったけど。
かれは本当に約束を守って、気が向くと度々私の元を訪れてくれるようにな
った。
ただし、その後も何かとそういうふうに気に障ると『子供扱いするな!』と
怒られるのがパターンの一つになってしまったのだが。
・・しかし。
そういうことで怒ったり拗ねたりささやかに意趣返しをしようとしたりする
かれが、段々本当に“子供っぽい”ところがあることに気がついてしまった
のは・・・・・。
最早、最初の失敗の時点で逃れられない“フラグ”だったのかもしれない。


END.


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20110223:up

<Parts>の時点で想定していたし、メモ分は十分積まれていたにも関わらず動かず。
やっと書こうかという状態になれば何故か書き出しで詰まり・・・で、重要なものを忘れていた!
ということで最初に持ってきて、短文3本組になりました。
本筋には必須ではないのだけれど、背景設定的には割と重要というか・・・の情報を、それを出して
こられる関連エピソードに詰め込んだような状態になっているので、説明文98%のような有様に
なっていて単体の話としては大変読み辛いですorz スミマセンTT


[1番目の話]
◆ノクさんの嫁様捏造。堕天使設定の経緯は<Alert>を参照
 アダムの直系関連は<Alert>設定を踏まえて原典ネタの穴埋めその他。

 直系には生没年数字があるそうなので本当は大分重なっているみたいですが。
 感覚的に“天上と地上両方”で“それなりに時間経過”させるためと、今回の洪水の件の時点でも
 アダムイヴが生きていて地上の異変を目の当たりにしたらなんかすごい気の毒なんじゃないのか
 ・・・とも思ったので天寿全うして去っていただいています。
 アダムの“地上”での寿命はほぼ1kMAX近いっぽかったのでイヴも同様ということで。
 大雑把に脳内目安で・・・
 1k経過→ほぼすれ違いにノクさん→365歳?で天上へ喚ばれる→天上で1k弱務める(“人間”
 としての最大寿命over)→そしてその頃七人の堕天使により“地上”に異変が
 ・・・て感じで。
 とりあへず、アダムとイヴが降りてから2k年と暫くほど過ぎてるんじゃないかな、ってことで。

 原典に嫁様の名前があるということですが、完全に捏造設定なので“彼女”とだけ。
 まあこのシリーズで“彼女”と表記されるひとは数名だし、本筋ではこれ以上具体的に出てこないと
 思うので大丈夫だと思・・。

 書いた順に読まれたかたはデジャヴったかもしれませんが、ラストは<Flag>と対になっています。


[2番目の話]
◆捏造ラジエルさんやっと出せた。
 wikipeのラジエルさん情報を元にして、ノクさんの書記官としての上司兼師匠になりました。
 構造設定と髪と翼の特殊な配色などはTSのオラクル由来です。色彩はフェルさんと白黒逆。
 白銀の模様は某薬売りのハイパーさんをシンプルにしたイメージ?
 金属っぽい白銀一色の眼は特捜司法官(←はS-A篇。麻城ゆうさん/道原かつみさん画の小説。
 漫画のJOKER篇もあります)イメージです。目をオラクルのように髪と同じにするかで悩んでいた
 らふと似合うのではと。いや好きなんだ・・。
 
 口調は文字だけだと時々かなりフェルさんと似てしまうのですが、喋り方そのものが違うということで。
  “溜め”が殆ど無いです。ぱしぱし。
 神をあれ呼ばわりしたり態度がフェルさんとはまた別方向の対等ですが、フェルさんと違って一応
 “刷り込み”は入っているので天使らしいところもあります。あの遠慮の無さと頓着しない様子は、
 情報管理という点で神とは一部共同体なので、会話以前のレベルでなんとなくの共感のようなも
 のを有していて支障がない部分ではいちいち断らないというような感じです。
 捏造基本篇の天界では、神(エル)を中央に実質3トップのような感じになってます。
 現在の情報収集管理+過去と現在の情報管理+天界管理補助のラジエルと、
 主に未来と<分岐>情報収集と神の選択の補助をするフェルさん。
 運命神みたいので考えると、モイライなら
 ラケ=エル(配置選択者)・クロ=ルシ(時を操作できる)・アト=ラジ(記録者なので変更はしない)
 とかかなあ・・。
 単純に時間神で言うなら、ラジ=過去・エル=現在・ルシ=未来かもしれませぬ。

 ちなみに、かれが「あれ」呼ばわりするのはその1=エル・その2=フェルさん・その3=ノクさん
 の3者だけです。職務上この3者としか個人(鳥?)的に遣り取りする機会が殆ど無いので、会話
 上の流れで「あれ」でも通じるため(笑)。
 ・・・4者揃って会話していることというのも、いっぺんくらいはあったのだろうか?

◆以前にこちらの落描きのほうでボソっていたifだろうと思っていた羽ペンネタは、もっと後にするなら
 ラジエルさん羽→フェルさん羽が可能だと判明したので無事に組み込まれました(笑)。


[3番目の話]
『話をしよう』の後に、すんなり<Call>で出ているような間柄になったのか?
 という部分と、ノクさんが鍛錬を始めた経緯の補完。

 体格とか筋肉状態とかは?という点はあるんですけど・・・なんせ古代人なんで。
 家周りの雑事だの、周囲にも折に触れて色々頼まれたりしそうだったり、しばしば徒歩で遠出して回
 ってたことを考慮+元からその要素恵まれてたんじゃね?ということで(ちょっとあの力持ちのサムソ
 ンさんみたいな?)脳内決着。

 後半には<Snow>でチラ出ていた最初に怒られた時のエピソードが入ってます。
 ここにも微妙にデジャヴのような・・な場面がありますが、コレが<Nuts>のあれのイメージの元、
 になるわけで。ノクさんの飛び起きた時の感覚は夢だとわかっていてもとてつもなくリアルに近かっ
 たのです。元がとても大事な記憶なので。


◆ちなみに、天界で神を名前で呼ぶのはフェルさんだけ。
 更に、かれが「神相手以外の会話」で神を「エル」と呼ぶのは一定以上の信用度がある状態
 ということで。「神」とだけ言っている場合はまだあんまり親しくない。
 =ナンナとナンナのネフィリムは天界関係者ではないですが信用されて□。



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