<Wing> ・・・其処は、天上に在る“鳥の園”。 色彩も、特徴も、大きさも様々な鳥の翼。 かれらの背に時折目にするそれを、私はとても興味を持って眺めていた。 私には無い、それは。 人間の素朴な憧れのひとつだろう。 天使(みつかい)の翼といえば、空をゆくための“鳥”の翼。 ひとに似ていてけしてひとではない、神の鳥。 しかし、天上で実際に、伝承だけではない数々の“実例”を目にして 分かったのだが、かれらが背に有する翼は“地上”のいきものである 鳥が“飛ぶ”ためのものとは少々違うようだ。 大きさも、体格に応じてみえる大きさのものばかりではないし、そもそ も飛行型の鳥のものではないような形状のものもあった。 ・・それでも鳥の翼には違いないようなのだが。 よく考えれば、実際に“人型”のものが基本的にひとよりも大分軽い とはいえ、“物理的”に羽ばたきだけで長距離の移動を賄うのは余り構 造的に向いていそうには見えない。 かれらの翼は、かれらの身体を形作っているエネルギーの一部の発露で あり、この<世界>の力を受けてその意志の向かうところへかれらを運ぶ 船の帆のようなものであったり、神の助けになるべくその力を行使する際 にその発現をしやすくしたりするためのものなのだろう。 また、その翼の様々さはその全てが“神がその卵を創る際に、その天 使のために選んでくださった”ものであり、かれらは大概、翼を褒めら れるととても純粋に喜んだ。 一群れで五羽ほどの組になっている小天使たちは、個々ではなくその組 別に選ばれた翼を持っていたが、かれらは一纏まりで“ひとつ”の存在 でもあるため同じ翼を持っているということ自体も喜ばしいことのよう だ。かれらの翼を褒める機会があった時には、何時の間にか揃って私の 周りに寄ってきて、誇らしそうに嬉しそうに翼を広げてくるくると踊る ように回っていた。 「ユキドリは、本当に真っ白で可愛いんだぞ。 今度、よく“見直して”来たらおまえにも“視せて”やろう」 にこにこと。 今回も幸いなことに、最上級天使の御機嫌は良好な様子だった。 “ナンキョク”という先の時間の“地上”の両端にある片方なのだという、 とても寒い地域に棲んでいる、広げた両手に抱えて載せられる程度の 大きさだという純白の美しい鳥の話をしてくれる。 全身を覆う真っ白い羽に、真っ黒な丸い瞳と少し尖った小さな嘴。 人間が暮らすのには困難な僻地の、足場の悪い岩山の隙間に巣を作る のだという彼らは、覗き込んだのが普通の人間だったとしても脅かさ なければ、声を掛けてみても全く恐れたりしないこともあるそうだ。 勿論、訪れたのがひとよりももしかしたら鳥に近しいのかもしれない いきものである天の鳥であればなおのことだ。 そっと持ち上げて撫でてみたのだというかれは、楽しそうに記憶を語 る。 時を渡るかれは、先の時間や前の時間から様々なものを持ち帰る事 がある。けれど、“いきもの”を持って移動することに関しては原則 的に固く自己に禁じているようだ。 かれ曰く「気をつけないと、物凄く面倒臭い事になる」。 既に生命活動を完全に終了している状態のもの(枯れた植物の茎で作ら れたものだとか、動物の加工済みの皮であるとか焼成された肉である とか)は基本的に問題無いようなのだが、“いきもの”と“種(たね)” になるものについては要注意なのだと以前に言っていた。 木の実がそのまま種になるものは管理を徹底する必要があり、種部分 を取り除ける果実などを食品として土産にしたい際は念のために種を 除いて来るのだとか。 まあ、かれらが食物として口にした場合は、天界仕様の私同様に全部 エネルギー変換してしまうので残留物が残る心配は(枝葉や根などを一 緒に持ち込まない限り)通常無いだろうけど。 先の時代の人間の作ったものを持ち帰る際には少々特殊な方法を取 って影響を極力抑えているそうなので、ふと、ルシフェルが持ち帰っ たことによるその植物の生成の影響は無いのか?(芽の機会的な意味 で)と尋ねてみると、かれが持ち帰る程度のものであれば基本的に “誤差の範囲内”なのだという。自分で果実を摘む場合に普通に土産 として選ぶものはそれなりに分布が在るものから選んでいて、減少種 の稀少品の実を分捕ってきたりしない、のだそうだ(そういう特殊な ものをどうしても持ち帰る必要がある場合は、例の特殊な方法を取る そうだがまあ滅多にそんなことはないらしい)。 だから時折、気に入った植物や動物の話をするような時。 気紛れのように、本当に極々稀に。 その細長い綺麗な手指を、そっと触れるか触れないかの位置で私の額 に伸ばすと、かれの持っている“記憶”の絵をほんの少し分けてくれ る。 そして、場合によっては“キューブ”で得られるような本当にその場 に居るかのような情報の伝え方も、かれは出来る。 本来これは、天に座し続ける神に遠くの物事を正確に伝えるための手 段なのだろう。 その場所の空気の温度や湿度、触れたものの手触り、音・色・匂い。 かれの“気に入った”ものの記憶を、子供が宝物を見せてくれるよう に、大切にそっと。 “見直して”来るという場合は、きっとそうだ。 ・・・柔らかで真っ白な鳥の手触りを“仮想の現実”で。 かれの手の記憶を、私の掌に手渡して伝えてくれる。 「・・有難う。 きっと、積もったばかりの雪のように真っ白で、とても可愛らしいの だろうな」 楽しみにしている、と笑いかけると、かれもにこりと笑う。 「ああ。 ・・・忘れないように、どこかにメモしておくかな」 言葉の後に、小さく冗談の様に潜めて笑う声が。 柔らかに優しく白い綿雪のように曇る天界の空を、背景に。 見慣れた仕事部屋の窓枠から見える梢の上に、密やかに響いている。 *** 「・・・貴方の翼は、どんなものなんだ?」 尋ねたのは、ふとかれの翼を未だに目にしたことが無い、と気が付い たからだった。 天使はよく“地上”で判り易く絵として描かれるように、総員が常に背 に翼を現しているわけではない。 小天使は移動の際に半ば飛び回っていることが多いためか、割合よく その翼を目にする機会が多いが、中天使以上はごく小さなものから身 長を超える大きさのものまで本当に様々な翼があり、天界で過ごす際 には普段は身の内に収めているかたが多いようだ。 それでも、天界でそれなりの年数を過ごしているとかれらの翼にある 特徴があることに気が付く。 それは、髪の色との共通点だ。 ・・・といっても、一筋縄ではいかないのだが。 天使の髪色は、人間のように通常一色(ひといろ)をしている。 が。翼のほうは鳥の翼が一色とは限らないように濃淡を含めて様々な 配色をしている。 綺麗な長い黒髪なので、黒色の艶やかな翼を想定していたら純白に一 筋の墨の黒が入っているものだったりとか。 金茶の髪で、蜜柑色の地に金茶の斑入りの翼とか。 勿論、二色(ふたいろ)以上を有するものも少なくは無く。髪色は想像 の手掛かりの一端に過ぎない。 だから、ふと。 黒髪のルシフェルの翼はどこかに黒があるのだろうな、とだけ思った のだが。 天使は翼を褒められるのは基本的に好きだ、と以前にラジエルが教 えてくれた事は実際その通りで、かれらとの遣り取りの機会などに挨 拶に一言添えるなら翼のことが一番無難だ。 かれらは、翼を持たない私が天使の翼に興味を持つのはあたりまえの ことだと思ってくれるので、社交辞令であるとか変に勘繰ったりはけ してしない。 何度か訓練試合に混ざらせて貰った中天使の一団などは顔見知りなの で。とある時の休憩時に、よかったら翼を見せて貰えるだろうか?と 尋ねてみると気軽に皆、自分のはこういうのだよ、と順番に背に現し て披露してくれた。それぞれの翼で気を惹かれた点を素直に褒めると、 とても喜んでくれる。 大天使のかたがたには流石に直に見せてください、とお願いする度胸 は無いのだが、私が通りすがりや相対する機会があった時に背の翼を 現していてそれに見惚れていることに気がつくと、さり気無くよく見 えるように向きを変えてくれたり、時間があれば声を掛けて近くで見 せて呉れたりすることもあった。 私は元々“地上”に居た時も鳥に惹かれることがよくあったので、 “地上”のそのいきものとは少し違うけれど、天使というかれら種族と その翼も、神の為に働く存在であるという事以外にも、ひととは違う美 しいいきものだという感覚をもっていた。 天使は皆、人間の平均以上に美しい容姿をしている。 衣服は大概、型は色々で色合いの差は多少あるものの白尽くめだ。 だから、その白に映える人間よりも様々な色彩の群れに一定以上の時 間が過ぎて見慣れてくると、その中で目を惹くものは・・色彩や特徴、 存在感のようなものが多い。 神やラジエルの存在感は抜きん出ている感じがするが。 ・・・・・ルシフェルは、存在感がというだけではなく。 衣服の型がというだけでもなく。 独りだけ、黒尽くめだ。 その色の理由を尋ねたことは無い。 なんとなく・・聞けない。 恐らくそれなりの理由がある、のだろうけど。 それでもそれをずっと知らずとも。 私は、脳裏に焼き付いた黒と薄い赤に惹かれるのだろうか。 「・・・・・」 ・・・その沈黙を前に、困惑していた。 私が“地上”に居た頃にも鳥の翼に憧れを持っていたことと、天使の 色々な翼はとても美しい、ということを話してから。 貴方の翼も見てみたい、という希望を言外に込めてどんなものなのか と尋ねてみたのだが。 何故か、かれは不興気な表情になった。 ・・・・。 ルシフェルがごく一般の天使とは色々と違う、ということは一応認識 しているのだが。・・まさか、翼に関しての感覚も違ったりするのだ ろうか? それとも。大天使以上の天使にはこちらから見せてくれと言うのは失 礼にあたるとか・・・いやでも、ほぼのっけに敬語丁寧語禁止を言い 渡したかれがそういう慣習があったとして気にするのだろうか。 少々内心混乱気味に狼狽していると、それほど前ではない記憶の時と 同じように窓辺に腰を下ろして、立てた片膝の上に片肘で頬杖をつい たかれが。半眼に伏せた視線を私に向けた。 ・・・何が気に障ったんだ。 「・・ルシフェル、あの。 何か・・・」 軽くむすりとしている様にしか見えない。 先程までごく平静だったのに。 「私の翼が見たいのか?」 意図はそのまま伝わっているようだ。が。 頷いて、尋ねる。 「・・・そう、なんだが。 いけなかったか?」 半眼のままの視線が横に逸らされて、溜息が微かに。 う。原因が、原因がわからない。 「・・・何が、気に障って」 怒らせた、という程では無いとは思うのだが不安になって、椅子から 立ち上がり窓辺のかれに一歩近寄って、言い掛けると。 すいと。真っ直ぐに上がった目線が私の視線を捉えた。 「人間は、鳥が大好きだろう。食べ物として」 え? 「無意識にでも、鳥と同一視されるのは居心地が悪いから、イヤ!だ」 えええ?! 予想外の方向に行っているんだが、これはやっぱり私の話題の並べ方 とか話し方が悪かったと、そういう事なのか?? ふん、と相変わらず不興気に目を閉じてしまったかれにどう応対した らいいのか迷って、おろおろとしそうになる。 ・・・それは、“地上”に暮らしていた時には鳥を食べたことは勿論ある し、食べ物としては好みなほうだけれど。鳥といういきものを好きだ というのとそれとはまた少々別で。 それに、鳥の翼を有していると いっても幾らなんでも人に酷似した外見をしていて、明らかにひとよ りも上位のいきものである天使を食用として考えるとかそんな・・・ そんな・・ っていうか。鳥と言うよりも人食に近いんじゃないのかそれは。 更によりにもよって天使が対象だなどと、不敬とかなんとかよりも最 早禁忌の領域では・・・・ まさか本当に気付かずにかれにとっては深刻な不興を招いていたとか、 と思考が軽く恐慌状態に陥りかけた時だった。 ぷっ、と吹き出す音がして。 先程まで目を閉じて片膝を抱えた状態で黙っていた筈のルシフェルが。 あははは、と窓枠についた両手で後ろに軽く反った身体を支えて、ひ どく可笑しそうに明るく笑っている。 「・・・・るし、ふぇる?」 ・・・状況が掴めない。 ふら、ともう一歩かれの間近に寄ると、細身の姿が笑い止めて、でも 笑みの気配を漂わせたまま私を見る。 「・・・いやまあ、冗談だ。 でも、見せてやらない」 それが、「私の翼が見たいのか?」に私がした返事への答えだと気が つくのに一寸間が必要だった。 「・・・・・・・・。 ルシフェル・・・」 がっくりと、全身脱力してそのまま窓辺のかれの足元に膝をつく。 かれはよく私をからかったり、掴み難い態度や言動をすることは少な く無いが、悪ふざけのような事をすることはまず無いのに。 でも、それでも安堵して。 ・・そして、やっぱり私に見せてはくれないのだ、ということに少し 残念というよりはかなしいような気分になる。 先程の食べ物云々が冗談であっても、かれを何らかの形で不興にさせ た事は間違い無いんじゃないだろうか。 深く溜息をついて、気力を大幅に使ってしまった感覚で体勢を変える とかれの足元の窓枠の下の壁に寄り掛かって座り込む。 ぐったりと疲労した様子を見て取ったのか、ルシフェルの“ジーンズ” に包まれた細い脚が、軽くとんと私の髪に触れる。 「・・・。 悪かった。苛めるつもりは無かったんだが」 ふう、と溜息が聴こえて。 それからそっと、指先の感触が頭の上に触れる。 「・・本当は。今日は約束した“ユキドリ”を“視せて”やるつもりで来 たのに。・・・なんでこうなっているんだか・・」 どこか自嘲気な声が再びの溜息と共に聴こえて。 すまない、という響きと謝罪の気配と一緒に、ふわりと。 辺りの空気が一変したことに気付いて目を開けると、そこは静かな 暗い場所だった。 周囲を見回すと、ふわ、と。 頭上から、雪が落ちてくる。 光を仄かに宿すそのひとひらが、降り積もり、降り積もり。 私の周りが円を描くように、柔らかな光に包まれる。 その中空に、黒衣の姿を現して。 軽い仕草で、雪のひとひらと同じようにかれは私の前に降り立った。 「・・・・ごめんな、イーノック」 伏せた瞳は後悔を表していて。 だからもういいのだと、私はかれの手を取った。 これは現実ではないのだから、直接触れるのが得手ではないらしいか れに素直に触れてみても、きっと大丈夫だろう。 かれは苦笑するように、でも柔らかく微笑んで。その手で私の手を取 り直した。 かれの掌を下にして、上向くように支えられている私の手の上に。 真っ白い鳥が姿を現す。 そう大きくない飛ぶ鳥の独特の重みと、ほんのりとした暖かさ。 柔らかな羽の輪郭。 きょろ、とその真っ黒で丸い瞳が私を見上げる。 「・・・・本当だ。 真っ白で、可愛いいきものだな」 笑いかけると、雪色の鳥はきょとんとしたようにしていた。 その様子を見て、かれも笑う。 これはかれの記憶を基に構成した“風景”だ。 私に“視せる”ために、わざわざ作ってくれたものだろう。 タイミングを図っていたところに、私がなにか微妙にかれの気に障る ことをしてしまったのだと思う。 「・・・有難う、ルシフェル。 私も、多分何か悪かった」 よくわからないが、と付け加えると。 仕方ないな、という表情でかれは笑って。 ぱちん、と軽く指を鳴らした。 *** 天高く舞う美しく力強い、白い守護の大鳥(おおとり)の姿を目にし てあの時のことを思い出し。 私がもう一度かれに願ったのは。 “地上”を救う為の旅が、途に就いたばかりの頃だった。 「私の翼? ・・それならそこにあるじゃないか」 かれが指したのは、私だった。 いや正確には、私の纏う“鎧”を。 「物質と力は等価なんだよ。 天使は神の力の一端であると同時に、意志あるエネルギーの塊なんだ。 “地上”のいきものはそこまで力が大きくないから、殻を纏っていないと安 定しないのだがな」 真面目に説明するような口調からやや変わって。 「・・というわけで。 おまえを護るためにその一部を分けて纏わせているのだから、 余り無造作に消費しないでくれよ? イーノック」 僅かにからかう様に笑う声が私の耳に届く。 素直に頷くと、かれは満足したようにふむ、と腕組みをすると。 顎に片手の指をあてて少しだけ思案する。 その瞳が上がって、薄赤を刷いた柔らかな茶色が私を見た。 「まあいい。 見せてやろう」 とりあえず一対だけな、邪魔だから、と言い足して。 かれが軽く指を弾くときらきらとした輝きを残して、神が私のために 形造って下さったのだという純白の翼を模した優美な鎧が姿を消す。 そして。 瞬きする程の間に、かれの背に大きな翼がその形を現した。 はたり、と羽ばたいて広げられて。 「おお! 髪と同じで美しい黒だな」 ・・・・やっと目にすることが許されたそれは、本当に美しい黒だっ た。 その重なりは、深く深く柔らかな夜のようで。 また、どこかあの星の海のような。 そして、晴れた明るい空の下で陽に広げると、透き通った羽は縁取り に光を帯びて。 私の混じり気の無い純粋な感嘆と賞賛と、そしてそれがとても気に入 ったのだということを示すと。 かれはまごうことなく神に最も愛されている天使の風情で、本当に嬉 しそうに受けてくれた。 「・・・・あの時は、本当に悪かったよ」 黒紗の上衣を緩く風にはためかせたルシフェルが、苦笑気味に済まな そうに笑う。 なんとなく気分が余りよくなかった状態だったけれど、約束の記憶を 視せようと私を訪ねたら、肝心の私が本当に些細な微妙な言い回しで かれの気に障ってしまったのだという。 不興の原因は、“私の翼が見たいというのは、そのほか色々と同列か”。 何となく。“図鑑”という種々の見本画が並ぶ情報を集めた本の様に、 私の記憶の中に鳥の翼や天使の翼を並べた記憶があって。その中に新 しく加えられるだけの存在として“見たい”と言われたような気がし てしまったのだと。 これは、“我儘”なのか?と少し悩んだ様子で首を傾げたかれに。 私は記憶を掘り返して、額を押さえた。 ・・・あの時の私には、確かにその感覚に近いものが一切無かったと はいえない。ルシフェルはきっと、敏感にそれを拾い上げて察知して しまっただけなのだろう。 「・・・・。いや、私も、すまなかった」 先程のように、貴方の翼が見たい、と率直に願うべきだったんだな、 と溜息をつく。 そうしたらやっぱり別の理由で断られていたとしても、かれの不興を招 くことも、その後の恐慌状態を味わうことも無かったかも知れないのに。 ほんの少しの間だけ目に出来た稀有な翼は、もう今はその背には無 い。かれの持つその力の一端が、再び純白の鎧となって私の身を包ん でいるから。 右腕を持ち上げて、その白さと翼を象った部分を眺める。 それは天使の翼。力在る存在の象徴。 でも、ふと思い出すのは。 あの純白の鳥の手触りと、かれの手の。 「・・・。 貴方の守護に。 そして、貴方が此処に居てくれることに、感謝する」 鎧の手の甲の部分を口元に寄せ、軽く唇を触れる。 その翼のひとひらが、私を護ってくれていることが。 そして、かれが共に在ってくれることが何よりも心強いことなのだと。 目を上げて真っ直ぐに見詰めた私に、かれが微笑む。 「ふふ。 本当に、無駄遣いしたら許さないからな」 からかうような口調だけれど、その眼差しは優しくて。 強い意志をその底に潜めている。 先を進む、という私の意志に、かれが頷く。 「では、行くか。 イーノック」 ふわりと、かれの姿が中空に溶け消える。 でも、気配は傍に在って。それに頷いて了承を返し。 未だ行き先も定かではない変容した風景の中で、白い鎧の足先は いつもよりも身軽く、地を蹴った。 END. <Song>に戻る |
20110316_3part-all_wup. かなり初期から“鳥ネタ”として保留され続けていたもの。 なんかもう保留されすぎてまさかこのまま書けないのかと思い始めてま した。・・まあ、書き始めて見ると明らかにこれ<Parts・3>だろう! ということで何故いままで保留になっていたのか判明orz ごく最初は<Wing>の元になっている、 「天使は霊鳥類」+「天使は色々な鳥の翼」+「ノクさんがフェルさん に翼を見たいと言ったが一度お断りされている」+「見せた時の」 辺りだけだったんだけど、その次に<Egg>の元になる 「天使の卵」+「シャボン玉に似ている」+「ちびエルとちびフェル」 が出て来て、最後に<Song>の元ネタな 「ノクさんに歌ってほしいと言うフェルさん」+「フェルさんは歌得手?」 が増えて、全部鳥関係だから一纏め?で。 結局短文組みになりました。 元々背景補完用のエピソードなのである程度は仕方ないとはいえ、また もや<Parts・2>並みの説明成分大量の暴挙で申し訳ないorz そして補足駄文も長い・・・。 ぴくしぶのほうでは、鳥ネタのWingイメージでこれ!と思っていた表紙絵を、 テーマ鳥ということで使わせていただいています(平伏)。 --------- ◆Eggめも。 やっと出せた。 前半分:ちびエルとちびフェル。 時系列は世界の始まり。 ちびエル外見5歳くらい、ちびフェル外見3歳くらいで想定。 公式は元から完成体で最初から既に世界の終わりまである?時を渡って 働いているわけですが、捏造篇仕様ではエル設定と併せて成長要素etc が含まれているのでこーなりました。 後半分:ノクさんとフェルさん雑談。 時系列は天界前期。まだ何事も無く平和そうな頃。 <Parts・2>で中天使しか説明出来てないので卵ついでに大天使と小天 使分を投入。 卵生=臍ない?→卵生だけど臍あるよネタは月光界シリーズ(麻城ゆう さん/道原かつみさん画の小説)のD・Dとブルーの遣り取りが元かも(ブル ーは卵生で臍がないタイプのいきもの)。 -------- ◆Songめも。 時系列は天界後期(設定メモの3〜4の4寄り?)。 知っている歌=決まっている言葉のかたまり だったら喋るのと違うことにならないか?と思って強請ってたという背景。 元々のネタは↑の冒頭の各エピソードのネタ纏めに書いてあるものだけ。 つい最近になって「どういうものを歌うのか?」+「展開は?」が思い ついたため何とか。 歌詞は本当に数分即時書きなので生温くスルーしていただけると幸いorz フェルさんは旅先で何をしてるの? という辺りの補完をちらっと。 単にあちこち飛んで眺めているのとは別に、<分岐>の気配を感知したり すると前後の経緯を目にするために暫くその時間に留まることがあります。 異質を悟られるとトラブルになることがあるので完全に一箇所に逗留したり はしませんが(色々見ながら点々と移動してることが多い)。 “天使の歌”が紋様化したものが、ラジエルの掌に現れるものや、結界 ・護陣などで使われているものです。 イメージはまんまごくありふれたFTにある“力ある言葉”とか“真名”の 一種みたいなものですが、一寸だけTSのカルマのマシンヴォイス風味 混入。 <For->でエルが“歌”の構成を思いつきで組み合わせているらしい ところの元イメージは、魔道を基礎知識と本能的感性だけで扱えちゃう 月光界のブルー(笑)。 エルの“落書き”っぽいものは、現代でいうHTMLソース中に非表示テキ ストを紛れ込ませてあるようなノリ。紋様を元に崩した一種の“仮名” のような非発動分なのでああいうメッセージとかお遊びに使える。 但し、紋崩しやそれの組入れも下手にやると当然危ないのでそんなこ とやらかすのはエルだけ。 ルシフェルは崩し方の法則が解っているので読めます。 あと他に解読出来るのはラジエルと、一部のその方面が特に得手な大天 使とか。 なお、プートが冥界内で表示していた解析画面?の文字は、冥界用の情 報文字。数字+単語の単語部分にルシフェルが持ち込んだ先の時間の単 語があれこれ投入されている(※文字は共通語だけど音変換とかで言い 換えている)一種の略表記なので、部外者がぱっと見てもなんのことや らわからんようになってます。 (↑これを更新情報を把握している冥府関係者以外で簡単に読めるのは エル・ラジくらい。冥府情報は全体回収分以外にもプートがラジに直で 定期報告を上げてるので直覧する機会はほぼないけど) --------- ◆Wingめも。 時系列は天界前期(ここもまだ異常なしの頃かな)→旅の始まり。 やっと此処で、コレ(おまけ文参照)とかコレとか<Call>の〆の辺り に旅以前の背景一周して戻ってきた感。 “持ち帰り”について補足(<Nuts>で持ってきていた黒苺とかああいう 類)、全部コレなわけじゃないということで。 (ループ方式でも“影響を最低限”となるのは、“ルシフェルがそうした” という事実は“存在”するから。※流れとは別の、<世界>の全体記憶 的な意味で) なお、通常目に見えないレベルの生物・成分等の付着は?のほうは、 A:天使は通常のナマモノではないので保菌・付着がほぼ無理。 衣類もかれを形成しているエネルギーの一部で素体コーティング もどきの状態なので同様。 仮に、万一くっついて来たとしても大概のものは・・特に時間逆行時 にはかれが“一羽ばたき”分移動する間に消えちゃうと思われ。 B:ルシフェルが“これを運ぶ”と認識して“キープ”しないものは除外 される(元々、神に持って行って見せるための能力なので、殆ど 意識しないうちに作用して、保存・維持に問題ない状態にする) ので、手にしていたり簡易四次ポケに押し込むものも同様に安全です。 ・・・の二つの条件により大丈夫、ってことなんだと脳内補完をお願いs(殴) |
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