「・・・暗いな。イーノックは見えないだろう」
「ちょっと待ってください。明かりを・・」
プートの声と共に明かりが灯ると、かれは掌の上に丸い光球を浮かせてい
た。柔らかな明るい黄色はランプのようで、よくわからない場所でも少し
落ち着く。
「状況がはっきりすれば、おまえの周り指定ででも明るくしてやるか。
そうしたら躓かずに動けるぞ」
ルシフェルの軽口交じりの言葉に頷いて、辺りを見回した。
そこは、ルシフェルの“森”という言葉から想像した“地上”にある木々の立
ち並ぶ場所ではなかった。代わりに、無数の変わった形の石柱が立ち並ん
でいる。
「此処は・・・石ばかりなんだな」
きょろきょろとしていると、ルシフェルが少し面白そうに笑う。
「ああ、木が生えていると思ったんだな。此処は巨大な洞窟のような場所
の一部なんだ。此処をもっと奥に行くと最深部に封印がある」
“泉”というのはなんだろうと探すと、すぐ傍に水の溜まった丸い池のよ
うなものがあった。そばに寄って覗き込むと、こぽこぽと水が湧き出てい
る。水は無色透明だったが、いつかルシフェルが持って来て見せてくれた
“シャボン玉”のように表面が虹色に輝いていた。普通の水ではなさそうだ。
「それは人間には飲めないからな、あと触るなよ」
眺めているとプートと行く先を検討していたルシフェルが一言釘をさして
からこちらに歩み寄り、再度、私の腕を軽く掴む。
「もう一度“跳ぶ”ぞ。此処から様子を見た限りでは、今封印のところに行っ
ても恐らく向こうの大気が漏れ出しているだけだろうからな。
冥府のほうへ行って、専門家と話をして、まあ最悪ダメならエルに上塗り
用の別タイプのものを作って貰わないと」
三重の封印を一気に破られるとか前代未聞なんだが!とぼやくように呟い
て、ルシフェルは私の腕を引いたまま灯りの下で細かく区切られた地図ら
しいものを見ていたプートのそばに歩み寄った。
地図の上には、青い線と赤い線で地形らしいものが描かれていたが、それ
はすうっと動いてぴったりと重なって紫に変わる。
「ズレも・・現状は無いようです。次元震の予兆とかなら、他にもどこか
ずれているでしょうしね。
本当に、現状は封印の部分破損と大気流入だけなんですか?
派手なのに地味で気持ちが悪いのですが・・・」
プートが眉をしかめた。
「私も余り良い予感はしないな。
“蚊帳”のせいで調査不足の“塔”周辺を改めて、“地上(なか)”と天上(うえ)
を含めて全部の情報チェックをしてもらうようラジエルにも頼もう。総合解
析はあいつが一番得意だ」
「わかりました。
では、一旦冥府に向かいますか?
場所はどうしましょうか」
「うーん・・・。
そうだな、“裏庭”で」
「了解しました。
少しだけお待ちを」
“裏庭”というのはどんな場所なんだろうな、と思いつつ。
先程から掴まれたままのルシフェルの手の感触を少し気にしながら待って
いると、プートが地図をどこかへしまい、また別の色のメダルを取り出し
てそばに来た。
「お待たせしました。
では、開きますね」
先程と同じように、“通路”に指定の場所を加えて行き先の指定を完成さ
せる。今度の陣は円を幾つも重ねたような模様だった。
多分、先程からのメダルの選び方と指定からして、区分の外から“跳ぶ”も
のと中で“跳ぶ”ものは使い分けているんだろう。
光が立ち上る。移動する際の揺らぎのようなものを微かに感じた後。
移動しかけた外の風景がまるで水に浮かんだ風景をそのままかき混ぜたか
のように歪む。
「・・・?!」
「プート、これで“跳べる”か?!」
「シャッフルされる可能性があります!
おふたかたともお気をつけ・・・」
プートの青ざめた顔と、冥主!という悲鳴のような叫びを微かに灯りの中
に残して、私たちは唐突に、暗闇に放り出された。


 「・・・・。
ルシフェル?」
腕を掴んだ手の感触がそのままあるので、かれはそこに居るのだろう。
直ぐに返事がある。
「・・・イーノック、無事だな?
何故急に、揺れが来たんだ・・」
呟いた声が、ふとこちらに向く。
「ああ、これでは全く見えないだろうな。
そうだな・・・ちょっと目を閉じていろ」
言われた通りにすると、腕を掴んでいないほうの手が伸びて、指先が瞼の
上を辿った。
ルシフェルが何か小さく呟く声と共に、指を離す。
「どうだ、目を開けてみろ」
ぱちり、と瞬きする。
視界は一変していた。
地平に月のような光源があり、辺りを淡く照らしている。
青っぽい光が、先程とはまた違った岩の多い風景を幻想的に見せていた。
「この月のようなものは、元からあるのか?」
「ああ、此処の光源は様々でな。人間の目には捉えられないものも多いん
だ。一時的に差し支えなく見えるようにしたから、まあしばらくは大丈夫
だろう」
ふふ、と笑うとルシフェルは私の腕から手を離した。
離れた温度を少しだけ惜しく思いながら、私は改めて辺りを見回して尋ね
た。
「ルシフェルは、ここに詳しいのだろう?
此処の位置はわかるのか?」
「いや。
ここの界は天上(うえ)や“地上“と違って少々特殊なんだ。
・・浮島はわかるか? 冥界という区分は一つの大きな湖の上に、それぞ
れの島が浮いているようなところなんだ。
主に、場所ごとの性質を分けたり、魂が迷いださないためのものなんだが」
なんとなくわかったので頷く。
おそらく、移動はプートがしていたような“通路”を使い、島の位置はおお
よそにしか決まっていないのだろう。
「・・“地上”のいきものは死んだら皆此処へ来るのだよな。
そういえば昔ルシフェルは“天国と地獄”という話をしてくれたが、天界
は天国でここは地下のようだから地獄にあたるのか?
今のところ、静かで綺麗なようだが」
こんなところなら怖くないな、と笑うとルシフェルも笑った。
「“此処”はスクリーンのようなものだからな。
見るものに応じてなにかが映るんだ。
おまえの見ているものはいわば舞台装置のテスト用というか・・なんだが。
まあ、気に入ってくれたならよかった」
スクリーンという言葉がわからなかったが、神の下さった翻訳機能が遅れ
て、以前ルシフェルが映して見せてくれた幻燈の幕のようなものだと、私
にわかる近い概念を提示してくれる。知らないものだと更にルシフェルに
尋ねることになるが、旅の間にルシフェルと色々話しているとこういう風
に時々助けてくれるのがとても有難い。
「魂に夢を見せる場所なのか?」
「そうだな。そんな感じだな」
「・・そうか。
暁色の翼を持ったルシフェルには確かにここの主(あるじ)はふさわしいな」
“暁”という言葉はまだ暗いうちから明るくなる時まで、様々な時間を指
しているそうなのだが。ルシフェルが前に“ニホンゴ”でこういうのがあると
言っていた夜明け前の黒。夜はひとに夢を見せる。
「・・・・。
油断していたらまたおまえは・・」
ルシフェルが眉をしかめてそっぽを向いた。
「・・何か気に障ったか?」
「・・・・。いや、いい。
そろそろ、進んでみるか」
「そうだな」
頷いて、道なりに歩き出す。
ここは静かで、ナンナたちと一緒に旅するようになってからそれまでほぼ
傍観していた四天使の面々も時折会話に混ざることもあり賑やかだった
ので、ルシフェルとふたりだけでこの静かな世界を歩いているのはちょっ
とだけ不思議だ。
「・・・どうした?」
青い光に照らされているルシフェルの横顔を眺めながら歩いていたら、か
れもこちらを見て、不思議そうにしていた。
「いや・・その。
静かだな・・と」
何か別のことが言いたかったような気もするが、私の口からはそんなこと
しか出てこなくて。
「・・・・。そうだな」
ルシフェルも、別につまらなそうでも混ぜっ返すわけでもなく。
ただそれだけを口にして、また前を向く。

 もう暫く歩いたところで、ふと、ルシフェルが立ち止まった。
「おかしい」
「?」
私も立ち止まってかれを見る。
「どうしたんだ」
「・・・・。この場所は、そんなに広く設定されていないんだ。
無論、舞台装置そのものは、という意味なんだが」
スクリーンの中なら無限だからな、とかれは呟いてから眉をしかめた。
そして、左手を軽く振るとそこには見覚えのある透明の“ビニール傘”
が、綺麗に畳まれた状態で握られていた。
そのまま左手でそれを剣のように掴みなおし、道の向こう側に向かって
青い月の光以外何も無い空中を勢いよく薙ぎ払う。
 ルシフェルの切り払った動作の後、何事も起こらなかったように見え
た。しかし。
「・・・!」
月の光を染めた風景は、その動きの通りに弧を描(えが)いて白く亀裂を
生む。まるで、ルシフェルが言っていた、夢を映す“スクリーン”を切った
かのように。

 「・・・。この場で、私の前でこんなことをしてみせるとは。
一体誰だ」
ルシフェルの平静だが少しだけ強い声が凛と響いた。
返事が返るとは期待していなかったようだったが、少し後に、軋むよう
な音がした。
それは金属が軋るような。壊れた何かが引き摺られるような。
耳の底を擦る“雑音(ノイズ)”のような。
『鳥は御気に 召さなかったようね』
『でもでも 本当は鳥も望んでいたのでしょう?』
『でなければ 月夜の道が続くはずも無い』
歌うように軋みながら届く音。
言葉遣いはけして荒くは無いのに、さして大きくないこの音が
耳を突き刺すように響いてくる。
「イーノック!」
耳を抑えた私に気付いて、切った動作のまま少し前に出ていたルシフェル
が慌てて数歩の距離を戻ろうとする。
だが、それはその動作とは裏腹に近寄れず。
驚愕の表情を浮かべて手を伸ばしたかれに、私も片耳から手を離してその
手を取ろうと伸ばしたのに。
ぷつん、と“画面”が消えるように辺りは暗くなった。
『哀れな人の子 愚かな人の子』
『カナシイことは 繰り返される』
『天も鳥も 自分勝手』
そこまで続いた歌声が、ぴたりと止まった。
影絵のように、暗い場所に丸く映った明かり。
映る影は・・・空中に背を下に向けて浮かぶ人影。
人影の見覚えのある輪郭。
『人の子ひとり 鳥に夢をみているの』
『鳥はひとり 時を渡り絵札を散らす』
『天はひとり 思い出ごとを打ち捨てる』
キリキリキリ、と“オルゴール”の螺子を巻くような音がする。
しかし、思い出にあるような可憐な音は聞こえない。
キリキリキリ、キリキリキリ。
螺子の音だけがただ響く。
『愚かな人の子 鳥を信じるな』
『哀れな人の子 天を信じるな』
『それが壊れた我が身の 忠告ぞ』

耳を突き刺す音に耐えながら聞き取っていた私は、そこまで聞いて両耳か
ら手を離して言う。
「鳥がルシフェル、天は神のことだったら
あなたは何か誤解しているのではないか?
あのかたがたは管理者ゆえに選択をするが、一切ゆえなく進まれることは
ないと思うのだが・・・」

『そう思いたいなら 思えばよい』
急に、ざらりとした、歌ではない“台詞”が聞こえた。
『忠告は 不要かな』
先程の音よりはまだ耳に優しいその音だが、言葉はひたすら冷ややかで。
素手で氷に触れているようだ。
「・・私は、あのかたたちを信じている」
そう答えると声は嗤った。
『愚かだな 鳥に夢見し者よ』
『救けたくば 見つけてみせよ』
『硝子の時限が 尽きる前にな』
再び歌の響きになり、つんざく音が耳と思考を痛めつける。
ぽーん、と何かが響く音がし。
黒に映っていた人影が、四角い透き通った箱のようなものに落とし込まれ
る。
そしてばちん!と音を立てて音も影絵も消え。
そして私の意識も落ちた。



 「・・・・・」
頭が、痛い。
耳に違和感を感じて手をやると、耳から血が流れ出ていた。
何だったんだろう。
あれは夢なのか?
あまり記憶がはっきりしない。
でも耳の痛みと頭痛は本物だ。

ルシフェルと青い月夜の場所を歩いていて・・・声が。
かれが居なくなった?
救けてみろと、時間制限があると
言われなかっただろうか?

なら・・・・
「ルシフェル?」
呼んでみても、答えはない。
「・・・ルシフェル?」
気配もない。
「ルシフェル!」
姿は、どこにも見えない。
「・・・・・」

探せ、とは言われたが、一体どこを行けと言うのか。
時間はいつまでなのか。
全てがわからない。
しかし、じっとしていられず歩き出す。
 そこに、青い色が舞い降りた。

 「イーノックさん!
・・・冥主は一緒では?」
青い髪と同じ色の一対の見事な青い翼を広げたプートは、一瞬安堵しよう
として私の様子に気付いたのか蒼白に尋ねた。
首を振った私に、プートが気を取り直して
「まずはそれを治さないと」
と軽く手を触れると、耳の痛みと頭痛、あと血の跡も綺麗に消え去った。
礼を言うと、いえいえ、と少し笑って。
「冥主は一体どこに・・」
と呟くので、おぼろげな記憶を説明した。
しかし、かれにも心当たりはないらしい。
「・・・仕方ありません、片っ端からあちこち“跳んで”みませんか?
また揺れる可能性もありますが、四の五の言っている事態じゃありませ
んし・・」
回復は得意なほうですし、時の操作なんて出来ませんが防御補助と速度
補助くらいなら出来ますよ。とプートが指を折って3つ並べた。
「恐らく、そういう相手なら妨害がある場所を探せばいいんじゃないで
しょうか?」
戦って突破しないといけない場所か、と了解する。
「では、とりあえず“跳んで”みますよ!」
“通路”が光る間に、辺りを眺める。
ひとつの球体の石がある以外、ただ広く、なにもない場所だった。





 幾つかの“島”を巡った後、ひとつの場所で“地上”の“塔”で見かけた使
役獣たちの姿をした、半分幻のようなものが徘徊していた。
「これは・・いわゆる幽霊、というわけでは、ないのだよな?」
「違います。
此処の魂は基本的にこういう形状はとっていないんですよ。
それに・・・」
プートは幾つかの呪文を口中で唱えると空中に“画面”のようなものを開
いた。枠の黒い縁取り以外透き通ったそれは、風景がそのまま見えている。
その風景のなかの幽霊もどき?や周辺のものに細かくなにかの表示が現れ
る。私には読めないが何らかの情報のようだ。
「これは・・・核(コア)、だけですね。
あれは一種の幻影です。あの姿の中に幻影を映し出す石のようなものが入
っていて、一定のプログラム・・えーと行動規定ですね、に従って動いて
いるんです。いきものでも魂でもないし、完全に意志もありません。
ただ、無属性の分“浄化”は無効になりますから武力勝負になりますが」
「ただ在るだけの人形のようなもの・・なんだな」
「そうですね。
それでも・・あまり長いこと放置してもしも意識が生まれるようなことが
あれば、かれらにとってはよいことではないかもしれません。
遠慮なく、核を砕いてやってください」
「・・わかった」


 プートは半分は天の助力者である天使(みつかい)で尚且つ、サポートに
長けているルシフェルが自分の代理にと選ぶだけあって、とてもよく気が
ついてくれて助かった。
口調は丁寧だが雰囲気はあくまで気さくで、ルシフェルと親しそうなこと
もあって話し易い。
私が防ぎ切れない時や力の強い相手には防御補助や各種の属性付与、相手
が速かったり数が多い時には速度補助を使い分け、回復をしてくれた。
鎧の修復だけはかれ自身の力では無理だそうだったが、此処冥界も本来は
神の管轄である領域なのであちこちに祝福の光のような“光の滴”と呼ば
れる凝縮されたものが隠されていた。何かの時の備蓄なのだというそれを
使って、鎧が完全に壊れる前に補修してくれる。
ルシフェルと一緒に居るときと違って致命的な判断ミスは許されないが、
勿論それはかれが例外中の例外なのであって、ごく通常の戦闘サポートで
あればほぼ理想に近いだろう。
 
 この世界の浮島は、天界の建物同様に見た目と実際の内部は“地上”の
ように一致しないらしい。島自体はさほど大きくなくても、それは深く深く下
方に向かって広がっている。プートは省スペースです、とか言っていたが。
大分その島の深層まで下りてきたところで、プートが休憩を提案したので
見つかりにくい場所にかれが隠形の護陣を描いて少し休むことにした。
体力やエネルギーそのものは回復で補えても、余り動き続けると集中力が
保(も)たない。意識のどこかは時間制限に焦燥を覚えているのだが、期限の
わからないそれに闇雲に走ってもきっと上手くはゆかない、と既に何度目か
自分に言い聞かせて深呼吸する。
 何か食べますか?と尋かれたが流石に今ものを食べる気にはならない。
普通の人間よりも余り食べなくても保つし、前に食べてからそう経っては
いないからまだしばらくは平気だろう。
そう伝えると、
「あ、では・・こちらならどうでしょう」
と言ってどこからともなく水筒を取り出した。
ルシフェルが“マホウビン”と呼んでいたものと同じような感じだから、
先の時代の土産のひとつなんだろう。
茶器になっている蓋に注いで差し出された中身は、淡く暖かい湯気を漂わ
せている独特の滑らかな白茶色をした液体だった。甘い香りと薄くミルク
の匂いがする。
「ココアですよ。飲んだことありますか?」
確か、以前ルシフェルが材料を持ってきて目の前で作ってくれた事がある。
頷いて、礼を言って受け取った。
「冥主もこれお気に入りのようですが、わたくしもこれにはこだわりがあ
りまして」
二重蓋のもうひとつに注いで自分も口にしながらプートがにこりと笑う。
色々試してみたけれど、これが一番好みの味なのだという。
ルシフェルもそういえば、色々な食べものを持ってきていたけど、甘すぎ
ない程度の甘いものがかなり好きらしい。
これは自分で作ると濃さや甘みを調節できるからいいのかもしれない。
 ふと、プートに尋いてみた。
「プートは、ルシフェルとは仲が良いみたいだが。
気が合うのか?」
「大雑把に言うとそうとも言えますが、正確にはサポート傾向の思考パタ
ーンとか味の好みが近いので冥主が話し易いんですよ」
あのかたはああみえて“人見知り”が激しいので、と続いた。
ルシフェルは大概の相手にあの独特の調子で話をするが、慣れない内に相
手が近付きすぎたり気に入らないと煙に巻いて立ち去って近寄らないとい
う。
「同じ頃に孵られたラジエル様の言によると、まだ余り大きくなかった頃
には天主(かみ)としかろくに話さなかった、とか」
「はは」
小さな頃のルシフェルか。
想像してみる。神もその頃は余り大きくなかったと言っていたので、数歳
違いの兄弟のような感じだろうか。
ルシフェルも人間の子供がするように、服を掴んで隠れて後ろから窺った
りしたんだろうか? それとも、離れて様子だけ窺っていなくなったりし
たんだろうか。
人間からすれば永遠に近いほどの時間を存在している相手は、時々最初か
らその姿だったような気しかしなくて少し不思議な感じもするが。
叶うものならちょっと見てみたかった。
 
 ココアのおかわりをさせて貰ってから、再び先を進むべく立ち上がる。
ルシフェルに今度、小さい頃の話を尋ねてみようか。
かれは何て、答えるのだろう。 




3頁←

→1頁



<Nuts>/<Alert>/落書目次/筐庭の蓋へ