<Second>




 「もう一度、<アダム>を創ろうと思うんだ」
私が口にした言葉に、軽く息を呑むような気配が返る。
それから、その瞳が少し俯いて、呆れたような溜息が落ちる。
でもそれは・・いつもの私の思いつきに対するようなものに見せ掛けて
いながらも、その底に微かだけれど見紛うこともない、苦いような気配
を帯びていて。
「・・・・。
何故、その“名前”にこだわるんだ?
もう、これで・・3度目なんだぞ」
名前が良くないのかもしれないじゃないか、とおどけたように微笑んで
口にしてみせるかれに、胸のどこかが痛むような気分になるのをひとつ
息をついて遣り過ごして。
「・・・・だから、だよ。
“その名前”を悪い意味にはしたくないんだ」
失敗の代名詞になんて、したくはない。
ああ、これも私の思いつきで、我儘なのかもしれないが。
それとも、こだわることにすら“別の意味”があるのかもしれない。
それでも。
だからこそ。
私は自分の気持ちで、この意志を信じてそれを選びたい。
・・・あの時から黒い服しか身につけなくなったかれにとって、この名
前が未だにとても“重い”ことはわかっているけど。
そのためにも。
そして、つまりはその名前で引き起こされる痛みを軽減したいと願う、
私のために。
やっぱりこれは、私の我儘に違いないから。
「・・本当に、君は。
これと決めたことを、“諦める”のが嫌いだな」
ふ、と伏せた瞳が。
どこか遠い悲哀を仄かに帯びていたけれども、柔らかに笑む。
かれに負荷を与えてでも、新しい別の名ではなく、思い出のあるこの
“名前”に拘る自分にこれで本当に良いのかともう一度自問自答して。
決心が変わらないことを、確信してかれに向き直る。
「・・・ゴメンな、ルシ。
今度こそ、“成功”させてみせるから」
笑ってみせると、苦笑気味にわかったわかった、と軽く手が振られる。
「・・期待出来ないけど、期待しておく」
はは、と明るい笑顔を作るその、もう完全に大人びている容貌に。
時の流れを感じて、そろそろ少し遠くなっている記憶に想いを馳せた。





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