「やあ イーノック」

「ルシフェル!
久し振りだな」

「そうだったかな
・・ま、いいか
土産があるんだ」

「・・・・うわっ!
なんだこれ。
キラキラした包みだな」

「駄菓子っていうんだが。
面白いんで集めたら一山になった」

「・・どうやって開けるんだ?」





「おはよう イーノック」

「・・・おはよう ルシフェル」

「・・もう驚かないな
つまらないぞ」

「深夜より普通だな

・・・食事する気があれば
一緒にどうだ?」

「ああ いいよ
待っててやる」





「イーノック!」

「ルシフェル?
・・どうした」

「・・・・。
あーもう!
おまえは何で私の言うことをきかないんだ!」

「・・・?」



天使である上に、時を旅し続けて時間の概念が通常と違っている私では
彼の助けになることは難しかった。
連綿と繰り返される長い静穏が、彼の口を重くしていったのに気付くの
も、更にそれを理解するのも遅すぎた。
それでも私は、私の我侭を諦めきれなくて。



「・・・イーノック」

「・・・なんだ」

「もうちょっと話せ!
なんでそんなに面倒臭がりになったんだ・・
私の暇つぶしを拒否する権利はおまえには無いぞ」

「・・・はは」

「・・・・。
今のは笑うところじゃないが」

「いや・・・
ありがとう ルシフェル」



イーノックのあの表情を何度も見るうちに。
・・・私はふと、神に願うのではなく、どこへともなく想いを馳せた。
彼と暫く一緒に居られたら、少しはマシにならないだろうか。
勿論、ただの思いつきに過ぎなかったのだが。

そしてそれは・・・・・・・実現することになった。











「やあ 戻ったか
おかえり イーノック」

「ただいま
ルシフェル」

「そろそろ夕方になる時間のはずだ
休む場所を見つけようか
塔まではまだ距離があるから、急ぎすぎるのはよくない」

「・・・そうだな
ほら」

「・・・。くれるのか?」

「食べられる木の実だ
昔、よく探した」

「・・・
こないだのみたいに渋かったりしないか?」

「・・・ぷっ・・・ははは
大丈夫だ、それは甘い。問題ない」

「〜〜いーのっくー!
笑うな!!」



ルシフェルが白い頬に紅の色味を上らせて声を上げる。
まあ、かれに比べたらものすごく年下の私に子供っぽいと思われたん
じゃないかと憤慨したのだろうけれど。
しかし、“地上”の命運を賭けた旅に、とても不謹慎なのかもしれないが。

貴方と旅が出来るとは・・・・・・・・思ってもみなかった。







 ・・この旅の顛末は私にはわからない。

それでも、イーノック。
おまえは“人間(ひと)”だから。
変わってしまうけれど、変わってゆける。
変えてゆける。
だから、おまえが望む未来を掴め。

それが今の、私の我侭だ。







・・この旅の結末は、私にはわからない。

それでも、願いがあるから。
希望があるのなら。
私に出来る道を選びたい。
ルシフェル、貴方が気に掛けてくれたように。
我侭と言われても構わない。

一番いい、未来をきっと。





END.






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