イーノックたちが往来路に何事も無く私たちの待っている護陣の場所
まで帰って来て。
ウリエルが話す“方舟”の首尾の簡略な報告と、ネフィリムにただいま
と抱きついたナンナが早速取り出したかれのための“お土産”を私にも
どれが良いかと分けようとしてくれるのにどれがいいかなと果実のほう
でも物色しようとして。
ふと、先程ただいまと笑ってみせたイーノックの様子が、何となく違う
なと思ったことが気になった。
元々、ナンナやウリエルに比べたら“賑やか”な奴ではないが。
でも、既に短くも無い旅の間に、もう殆ど違和感を覚えることなど全くと
言っていいほど無くなっているほどちゃんと喋ってくれているのに。
問題があった時と似たような、違うような、妙な違和感を覚えた気がし
た。
・・私に向けた表情と眼差しは、何時もどおりのようだったのに。
実はうっかり植物区で転寝(うたたね)してしまってよく眠れなかった、
面目ないと。暫く休んでもいいかと、ふわふわの上で手触りに気付いて
微笑って横になったきりそのまま静かにしているその感じは、これまで
見たことがないような。
ナンナにどうかしたのかとこっそり尋ねるが朝に何だか“すごく疲れた”
気配がしていたというのと、ウリエルからは本人が言った通りに植物区
で転寝してたのを起こして連れて来たとか朝食は断ってその分がその土
産だという情報が得られただけだった。
ノア、という彼の一族の今の長のひとりにあたる者に会った後から此処
へ帰る道すがらは、少しだけ明るい表情を見せていたようなんだが。一
時的に緩和して浮上していただけなのか?
・・・うーん。
食事に関しては前日のそれが、以前にエルが先の時にもある菓子やそれ
っぽい食品も参考に“現在”にある素材で作ってみていた高性能の栄養
補給品だと思うから消費していない状況であれば不自然じゃない。
人間のような動物は活動しやすい適温に体温を保つためだけにも摂取し
たうちから大半のエネルギーを使うが、イーノックは構造変化により大
分その辺りの色々がコストダウンされているから。
でも、起きたら“すごく疲れて”いた風だった?
・・・・・。
また、嫌な夢でも見たんだろうか。
でも、今回はそういう風には言わないしな。
それはまあ、言い難い夢とかってのもあるかもしれないが。
前のも何か、“嫌な暗示”を想定して悩んでたようだったし・・。
・・・。
後でそれとなく聞いてみようか。
でも、おまえが自分から断片さえ提示しないなら、無理に聞こうとしな
いほうがいいんだろうか。

 ・・・もしかしたら、一人で居る間にふと。
変わってしまったと聞いたリリスのことを思い出して、また“あのこと”
を気にしていたんじゃないだろうな。
 何とか落ち着かせられないかと、大分無茶して“浄化”と“分解”を
繰り返していたのだから、もしかしたら強い念に近く触れすぎて、いつ
かの黒鱗を握っていた私のように何らかの影響を受けてしまっていたの
かもしれない。
もうあれは今では彼の近くに無い、からあの時の私のように進行する心
配は、無いとは思うんだが・・。
・・・・まあ、理由はどうあれ。
あれこれ悩むのもやっぱり、ひとのうちで。
それも仕方が無い、のか。

 おまえの内だけにある夢や何かは、私は直接干渉できないんだ。
気に掛かる何かがあるのなら、言えることなら教えてくれ。
おまえが私を助けたいと思うように。
私もおまえを助けたい。
元気でいてほしい、んだ。
・・・・。
わかっているんだろうか、こいつは。
私の文句のような我儘な心配にも“有難う”と返したおまえなら。
わかっている筈なのに・・・。





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