―――漸く、全てに片が付いた。

舞耶姉も今度は死なずに済んだし、こちらの世界は崩壊も免れた。
これでいい。俺の出来る事はここまでだ。
再び出来た、二度目の仲間の面々と別れるのは辛いけれど…でも。
此処に皆が居てくれると分かっているから、俺は帰ろう。
俺の居るべき場所へ。

舞耶姉。もう一人の克…兄。うららさん。パオフゥさん。
南条さん、エリーさん。 ―――リサ、淳。ゆきのさん。 …栄吉。
そして出会った数々の人たち…。
皆、元気で。
どうか、笑顔が多く、あれますように――。

舞耶姉の「ありがとう」というどこか泣き出しそうな笑顔と、
やっぱり泣きながら懸命に微笑っている克兄の顔を最後に記憶に留めて、
俺の意識は途絶える。



    暗い、暗い、彼方への道。

 ――フィレモンの声を、聞いた気がする。


             『君達は結局、こちらを選ぶこととなったのだな…。
              苦難の果てに持ち帰りし希望の種が、君達の世界に宿るだろう。
              けして一人だけではなしえなかったことを忘れずに、ゆくがいい。
              さあ、再び君の場所で、目を醒ますのだ―――――』
















君…達…?   朧気に疑問に思いつつ、ふっ、と浮上する感覚で、
自分の意識がそこに在ることを感じる。
自分の身体がある、と思う。
でもまだ少し感覚がはっきりしない。
もう少ししてから、目を開けよう。
そしたら ―――――――
「タツヤ…? タッ、ちゃん?」
 え?
重い瞼を必死で上げると、
 ――――――栄吉の顔が、あった。


「タッちゃん! タツ…ヤ よかった…!」
息を詰めた様に緊張してこちらを見ていた面持ちが、笑みに変わって半泣きになる。
「目ェ覚まさないんじゃないかと…‥ 良かった。大丈夫…か?」
徐々に手足に力が戻ってくる。 何とか身体を起こそうと肘をつくと、
栄吉が背に腕を回して支えてくれた。
周りに見えるのは…こちらで最後に居た場所のあたり…だろうと思う。
確かに、帰ってきたんだよな。
…でも。
「…‥何で、栄吉も、居るんだ?」
随分声を出していなかったかのように、ぎごちない声になった。
まだ心配そうにしていた栄吉が、声を聞いて漸くホッとした風に笑う。
「“俺”もついてきたから、だよ。
だってさ、向こうのタツヤにこっちの‥タツヤがさ、混ざって(同調して)なくて
いいなら、俺だってそうだろ? あっちはあっちで‘居る’から、
支障ないんだよナ、実は」
「でも――…」
言いかけて、口籠る。
一度はあちらに完全に混ざっていたのに、それをかき回してしまったのは俺なのだ。
俺の我儘で…
「タツヤ!」
急に強い口調で呼ばれてビクリとして顔を上げる。いつのまにか、俯いていたらしい。
真っ直ぐこちらを見ている眼差しと目があって、逸らすことが出来なくなる。
「…栄、吉?」
「俺が、居たかったから、来たの!!タツヤのそばに、一緒に!ずっと!」
深閑とした空間の中に、声が響き渡り。そして微かな反響を残して消えてゆく。
「…‥」
俺が見詰め返すと、栄吉は急に声を落とした。
「いや…その…俺が、そうしたかったから、なんだけどさ。
タツヤ…嫌だったか? 俺、向こうに居たほうが安心出来たかな?」
ほんの僅かな間、考えるように口を閉じて視線を巡らせてから、
再びこちらの視線を捉えて、その声は言葉を続ける。
「それでも―― 俺は、一緒に居たかったんだ。
タツヤを、一人にしておけない。
 好きだって…言ったじゃんか。
…いつどんな世界でも好きだ、とは誓えない、けどさ、
でも。
今のこの俺は、目の前に居る“この”タツヤが好きだ。
それだけは、何が変わろうとも本当、だから」
 ―――。
ここまで真剣で、しかも静かな様な栄吉って、
見た事があっただろうか。
どこか…以前二度目に出会ったばかりの頃(まるで遠い昔の様だったが――)、
何故この性格でラダマンティスがペルソナなんだろうなぁ、と思っていたのを
“納得”した瞬間の気配を思い出した…
気がした。
懐かしい…潔い、気配。

 ああ…栄吉、だ。
と。
俺が好きで、そして、俺を好きだと言ってくれた栄吉なんだな、と。
   ―――ストン、と腑に落ちた、様な。
「…。栄吉」
笑顔になったつもりだったけれど、栄吉の驚いた顔が霞んでゆく視界に入って。
「な、泣くなよって、タッちゃん…」
大好きな声が、俺の名前を呼んで、宥めようとするんだ。
「栄吉…栄吉…‥」
「タツヤ…‥?」
聞き慣れていた筈の、声。
二度ともう、傍らで耳にすることは無いと思った。
ほかの誰でもない、たったひとりの、記憶。
その気配と存在。
 確かに、此処に在って。

―――呼びたかったんだ、ずっと。
そばに居たかった!名前を‥呼んでほしかった」
力一杯、見慣れた…でも記憶では悠か遠かった制服の襟元を掴んで引き寄せる。
今だけは我慢したくない。泣きたいんだ。
「ご免…少しだけ、このままで居させてくれ…」
栄吉の手が、ゆっくりと俺の肩と背に回り。両腕が、着慣れ過ぎて
所々もろけてきているセブンスの制服ごと、俺を抱きしめてくれる。
「…‥。好きなだけ、好きなようにしてていいよ、タッちゃん。
ずっと、俺は一緒に居るから。行けるところまで」
相変わらず、タツヤとタッちゃんが混ざってるなぁ…。とまだ何だか実感が
掴めずにとりとめのないことを考えていると、

死んだって、ペルソナになってくっついてやる!と、駄々をこねるように
言われてつい小さく笑う。歌いまくりそうなペルソナだろう、それ。

    そうだな。行けるところまで、一緒に、行こう。



  ―――その日。
旧い世界には、何というのかわからない色の、小さな光が、
音も立てず、降り注いだ。 ゆっくりと、ふわり、ふわり。
まるでタンポポの綿毛のように。
それらは、それぞれ空中都市の住人たちの胸や周りに降り、そして
気付くか気付かないかはそれぞれだったが、そっと、根付いた。

 そうして、世界は次第に均衡を取り戻してゆく。
滅びを望む、誰もがどこかに持つその願いを、小さな光で照らして、

生きてゆく為の、標(しるべ)となして。
    けして、声高な力ではなく。絶大な威力を誇るものでもなく。
ただきっと、いつも心の片隅に在って、思い出すと呼吸の仕方を思い出すような。
そんな、小さな、光(ねがい)。

多くの祈りと、意志と共に。


そして、滅びた筈の地上に、都市の人々が幾つもの光を目にするようになるのは
それからしばらくしての話。


了。


20040619SN:up





言葉には、できない。



思い出したらついてくる、とかだったらそれはそれで…
と思いまして。(マヤさんは向こうでは亡くなっているので不可ですが)
栄吉の記憶のみ戻った場合で。
(三人全員戻すと流石に影響がありそうなので、罪コンバートの「リサの問い
への回答」と同じ相手のみの記憶を戻しつつ条件をクリアする、でその一人、
というのはどうだろう・・と一寸バカなことを考えてみました;)

切れ端の伝聞と、その他からこんなものが突如生成されました;
EDが切れ端しか分からないのでifということすらかなり無謀・・。
リサ/栄吉は思いだした場合EDがそれぞれ対応するらしいですが、どうなってる
のだろうなぁ・・。罰側達哉に声を掛けて向こうは「?」とか・・。
思いだした記憶はどうなるのだろう。罪側達哉が去ったことでまた眠りについて
しまうとすれば、上記落書きの条件のようでも辻褄は・・・ギリギリ?;


もう「これで今は十分」だろうということで、この状態でうちの達哉だったら…の
一番の切望を書いてみました。
名も呼べない、呼んで貰えない。
そばに居られない。
何より大事なもののために、
失うことを恐れて、そして失ってしまった。
パンドラの箱を閉じようとして失敗し、
そして自身の責との闘いの末に
希望を手に入れた。一番大切なものと共に。
 こんなんだったら良いかもなぁ…
という祈りを込めてでっちあげてみました;(でっちあげすぎです;)


ちなみに、ラストの一文は他の土地とか世界各国にはペルソナ使いや召喚士だの
だってあれこれ居るハズなのにアッサリ全滅はないハズだ!
(意志の力の強いものが取り込まれて滅びを望めばそりゃ強いかもですけど、
それでもどんな時でもあきらめない力を、顕在にしろ潜在にしろ、皆持っている筈
なのだから)とずっと思っていたのでこんなカンジになりました。
 しかしそれよりも、地球が存在している前提で書いていますが、もしや砕けて
小惑星帯みたいになってたりとかだったらどうしよう;;Σとか悩みつつ。


さて、そんなこんなで空中都市含め罪世界の地球はどうなっているのか。
けっこうドサクサでペル使い増えてたりして…とか。

兄とかも無事であれば使い手になってたら笑。果たしてヘリオスなのか?!が最大の謎。
(こっちの克兄は猫・菓子好きなのかー? 性格少々違いそうなような。
でもこっちの克兄のほうが見える範囲では風評の“鉄面皮”に近いので
達哉から見てこうだった、ということかもしれません。
…こっちの克兄、達哉が一寸おとなしいせいもあるけど取り付く島がないカンジだしなぁ
(苦笑)。心配もいいけど話を聞いてくれー(苦笑泣)。)


うちでの達哉の呼称は「タツヤ」なのですが(前々頁notice後書き参照)
電網で幾つか栄吉の居る文等を捜し当てて読んでいると矢張り大方「タッちゃん」
なので、基本の威力は凄いわ…と読んでいるうちにタッちゃんと呼ばなければなら
ない気がしてきた為、混在することになりました(元々このひと一人称も複数だか
らさほど不自然なことでもないのですが、流石に文中で何度も呼んでる状況だと
よくわかんないことになってます。スマン栄吉。
周防>>>タツヤ から 周防>タッちゃん>タツヤ
でタツヤ+タッちゃんに移行…ってことになるのかな?)。一寸した理由から混在
になった…というかんじがするのでその辺りは思案中です。


 タイトルはPandora Boxかな?
最初に書かないのはこれが結論だから…でした。

以上。こんな戯言後書きにまでお付き合いいただき有り難う御座いました!


                                          表扉に戻ります。青い頁に戻ってみます。




戯言な追記があったりします。


※ネタ元原典:ペルソナ2・罪/罰(ATLUS)。 勿論ですが個人的なお遊びの落書きにつき、ネタ元の製作会社等には無関係です。