PBM「ネメシスの支配者(仮)」 最終回追加エピローグA タイトル『あれから』 =京都= 「……全く、転校早々なにをやってるんだあいつは。放課 後私まで呼び出されるとは……。しかしなんだって放課後、 職員室じゃなくて校舎裏なんだ。うん? 転校早々? あ れ変だな、転校したのは数ヶ月前ではなかったか?」 京都で怪物の襲撃にあい、白金人はしばらく意識を失い、 記憶の一部を喪失していた。 それでも奇跡的に回復し、意識が戻ってから市長にまで なれたのだから、まったく幸運としか言いようが無い。 「私があの事件で、いやまて明日は熊と建くんの結婚式で ……」 記憶を整理していると、そこへ白金熊がやってきた。 「おとうやん、なんやねん校舎裏って」 「ん? 私がおまえをここに呼んだのか?」 混乱。脳が揺れているような感覚。 「まったく、しっかりしてな。ボケるの早いで」 父の背中を叩く。 「ああ、そうだったな。私がおまえをここに呼んだんだった な。実はな、ここにもう一人、呼んでいるんだよ」 そこへ、息を切らせて走ってくる沢木建の姿が見えた。 「こんなところで何の御用ですか、市長」 沢木建が白金人に挨拶をする。そこに白金熊の姿も見つ けて、何故か顔が赤くなる。 「ああ。これは私の一方的なお願いなんだがね」 白金人は神妙な顔付きで沢木建を見つめる。 「私の娘を貰ってくれ。頼む」 「え? それって……」 「キミが八木原真由さんのことが好きなのは知っている。 だが、この熊には幼い頃からずっとキミが婚約者だと信じ ているんだ。娘の恋愛に親が出るのは間違っているとは 思うが、どうか、娘を、熊をよろしく頼む!」 建の手を握り、深くお辞儀。 「おとうやん、なにしてんの……そんなこと、やめてぇよ」 「…市長、いえ、お父さん。ぼくはそんな風にお願いされる までもなく、熊さんと結婚するつもりですよ」 「本当かね!?」 「この一年ちょっとの間、ずっといっしょに居て、文字通り生 死をともにしてわかったんです。ぼくには熊さんが必要な んだって」 それを聞いて熊は涙を流した。顔は笑っているのに、涙 が止まらない。 「……そうか。そうだったのか。それならよかった。うん。も う心配はいらない……な……」 緊張の糸が切れたのか、白金人はその場に倒れた。 そして、二度と意識が戻ることはなかった。 白金人市長が亡くなった日。月は消滅し、世界は救われ た。 * 京都市長が亡くなったことで、京都いや日本の政治に空 白の期間が生まれるかのように思われた。 二枚舌黒原は再び京都市長選挙に立候補するつもりで いた。前回、激しく競った長島本塁打は行方不明であり、今 回の選挙には立候補しない。二枚舌の当選が確実視され ていた。だがそこに3人のダークホースの出現。 その中の1人は政治を開発してやると、意気込みたっぷ りの辺降博士であった。しかし、月決戦での行いが後を引 き、表がそれほど伸びることは無かった。 残る2人。それは弦城甲斐と小野寺秀輝だ。 小野寺秀輝は大学生だ。政治の若返りを期待する人々 に、彼の存在は受けた。 弦城甲斐は最近では流れの用心棒として、各地で怪物 を倒し、知名度が上がっていた。年齢も32歳ということで、 政治家としては十分に若い。 二枚舌黒原を含む実質3名での選挙戦となった。 結果は弦城甲斐が当選し、次点に小野寺秀輝となった。 どのような人物なのか、よくわからない弦城市長だが、 どの分野でも満遍なく仕事をこなす。また、用心棒だったこ ともあり、警備員をつける必要もなかった。 * 「アンタも市長選挙に立候補すれば、当選したかもよ」 御灯透が永井透に語りかける。 「私は神に仕えるだけで精一杯ですよ」 メシア教本部の教祖の間で二人は語り合っていた。 あの決戦のあと、神は消えた。 しかし神が存在しなくなったと言っても、人々には魂の拠 り所が必要だ。たとえそれが偶像であっても、人は何かに すがりつきたい。 「誰もが人や神を超えた存在になれるわけではありません しね」 あの決戦のときに七神瞳は「神の力に頼っている限り、 人は神を越えることはできませんよ」と言った。誰もが神を 越え、超人になれるわけではない。 「だからこそ、私は私の信じる神を共に信じてくれる方たち と共に、神に近づこうと思っているのです」 外では信者たちが復興作業をしている人々に炊き出しを している。 「確かに神は存在しなくなったのかもしれませんが、人々 の心の中に、確かに神は存在するのです。そういった 人々を導いていくのが私の役目」 永井透はこれからもメシア教団の教祖としての役目をし っかりと務め上げることだろう。 そんな彼の姿を見ていると、御灯透も自分の役目を思い 出す。 「アンタに負けないように、オレも自分の役目をしっかりと 務めないとな」 白衣を纏いなおし、御灯は立ち上がる。 「もう行くのですか?」 「ああ。そろそろ午後の診療の時間になるしな」 「次は私の方からお茶でも飲みに行きますよ。」 「楽しみに待っているよ。信者には言えない悩みでもなん でも聞いてやる」 =博多= 日本からBCが消滅してから、博多に存在するBC脱出 本部はその存在意義を失っているが、地域の防衛活動の 拠点として新たなる意味を持っていた。 脱出本部長改め、九州地区防衛本部長はいつものように 事務所内で雑務に追われていた。 事務所の扉が開き、女性がやってきた。 その女性は本部長に深くお辞儀をした。 「……第三期BC脱出計画より、ただいま帰還しました」 「よくぞ戻ってきてくれたね」 本部長の胸にその女性=八木原真由は飛び込んだ。 キャロル・チェリーの金星や月からレポートを見て、本部 長も八木原真由が復活していたことは知っていた。それで も実際に再会すると喜びがこみ上げて来る。 =英国= 「よくぞ戻ってきたな」 所長は嬉しそうに彼を出迎えた。 「ただいま戻りました」 リーン・テイラーがアナス・ホリビリス所長に挨拶をした。 「英国魔術研究所はこれから大きな試練に立ち向かわな ければならない」 神々がこの世界から消えたことで、魔術要素は消滅しつ つある。魔術が存在しなければ、この研究所も無用の長物 となってしまう。 「その試練に立ち向かうためにも、リーン君の協力が必要 なんじゃ。協力してくれんか?」 所長の言葉に、リーンは即座に答える。 「協力しますとも。それで何をしたらよいのでしょう?」 荷物を置き、さっそく所長の手伝いを開始する。 =10年後= オニール一葉は宇宙船に乗り、【月】へと向かっていた。 十年前の最後の決戦後、魔術の弱体化によりTフォース は解体を余儀なくされ、隊員たちは特殊部隊へと編入させ られていた。 オニール自身は米国空軍を経て、現在はNASAで宇宙 パイロットをしている。 隣にはキャロル・チェリーが居る。彼女もレポーター業の 傍ら、この宇宙船に乗っている。 「こちら宇宙船『セブンスアイ』。これより月に着地します」 オニールは宇宙船を【月】に着地させた。 「制御装置装置の具合はどう?」 「順調ですよ。有栖川さん」 地上の基地からの無線にオニールは答えた。 「心配することはありませんよ。もう百回近く、月に来てい るんですから」 リーンも明るく返事をした。 あの決戦の後、科学は急速に発展し、一年前には元の 月軌道上に、国際宇宙ステーション『月』を完成させていた。 十年前のあの決戦を振り返るイベントが『月』で開催され る。 この宇宙船には見知った人々が乗っている。 一度は他の平行世界に飛ばされた御堂勇と姫宮若菜も、 この世界に戻ってくることができている。 「遅いよ。いつまで待たせるんだよ」 「そんなことを言うものではありませんよ、あなた」 『月』では精神体となった七神晶とシャラ・シャランが待っ ていた。 異世界に飛ばされた人々と再会できたのも、精神体であ る七神晶やシャラ・シャランと会話ができるのも、全ては 『人』の魔術要素のお陰だった。 「だが不思議なんじゃよ。なぜ人の魔術要素だけが無くな らず、まるで科学の発展を助けるかのように働いたのか」 辺降博士の疑問に、リーン・テイラーは微笑んだ。 「ぼくの尊敬する人物はこう言いました。 『全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇 妙なことであっても、それが真実となる』 理由なんてこれから見つけ出せばいい」 PBM「ネメシスの支配者(仮)」 〜おわり〜 【発行人より】 この追加エピローグAは、 オニール一葉さん、白金人さん、リーン・テイラーさん 御灯透さん、永井透さん 以上5名に発行されていますが、ご覧の通りこの追加エ ピローグには上記の方以外にも何名か登場しています。 |