PBM「ネメシスの支配者(仮)」
最終追加のさらにその後おまけ
タイトル『一つの箱』
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 台湾の台北市内にある青草巷。
薬草を扱う店が軒を並べ、種々の入り混じった香り漂
うその近くにある通りに、昔から変わらない佇まいの
古びた小さな店があった。
看板には日本語で「雑貨屋」と「小百貨」(シャオバ
イフォ)と漢語の日用雑貨を示す名が書かれているが、
店主も訪れる人も通称の“ガラクタ屋”としか呼ばな
い。
文具・石鹸・歯磨き粉・タオル・菓子類等のありふれ
た日用雑貨が木枠の戸に嵌った硝子越しに見えるが、
その奥には一見しただけではよくわからないほど雑多
なものが色々と置かれている。
古色蒼然とはしているものの、手入れは良い引き戸を
開けて子供がひとり入ってゆくと、奥から店主が顔を
見せて声を掛けている。
道の向こう側から硝子越しに中を眺めていた人影は、
それを機に歩き出して通りの裏に回った。

「暁(あかつき)」
四角く切り取られた光を背にした影が、下に声を落と
す。その底から縁なしの眼鏡越しに見上げたのは、
中背で痩せて真白い髪をした人物だった。多分70代
以上だろう。
両掌で持てるほどの木彫りの箱を手にしている。
「来て貰ってすまんな、御灯(みとう)」
「いや。これは、自分で来ないと。
ここに、しまうのか」
「石室みたいなものにしてみた」
暁が視線で示した足元には、小さな扉があった。
「箱の中、の中、か」
軽い動作で梯子を伝い3メートルほどの段差を降りた
御灯も、さして変わらない年齢のようだ。ごく短く切
られた髪は、白いというよりは半ば透き通った銀のよ
うに見える。
「相変わらず身軽いな」
「鍛えていないと、疲れる。から、な」
暁の賞賛に軽口の調子で返して、御灯はその手元を覗
き込む。
箱の中には既に幾つかのものが収められており、箱の
持ち主は折った紙のようなものを手に取った。
「もう、あれから50年ほども経って、殆どの魔術は
根源を失って力を無くし、伝承に語られるものとなっ
た。多分、俺達が生きている間には何事も起こらない
・・だろう」
低く呟くような言葉が、組石の壁に淡く響く。
「だが、いつか、全てが夢のように忘れられることが
あって、そんな遠くに、何かが起こらないとも限らな
い。何の役に立たないかも知らないが、これらを埋
(うず)めておこう」
頷いて返した御灯が、厚手のノートのようなものを取
り出し見返しを開くと、暁はその紙と手紙らしき封筒
を挟んだ。
ノートは持ち主の手で閉じられ、箱の中のものの上に
入ると蓋は閉じられた。
暁の、細かな傷痕の目立つ、癖のある指がその上に差
し伸べられて微かな光を放つ。
「“人”の言霊、これを護ってくれ。
誰か、これを本当に必要なものが来るまで。
できれば永久に必要なければいいけれど」
白い手が箱の底に触れて箱が光を帯び、御灯の声が言
う。
「でなければ、貴重なガラクタとして大切にしてくれ
る、誰かが探しにくるまで、な。」

願わくは、必要とされることなく・・・。


 ゆえを忘れじ
 歌い継がれよ
 もう一つの月
 人の創りし月の下で
 その祈りを込めて


                   了

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■暁草(シィアオ・ツァオ):
青草巷付近にある店を続けながら長年変わらないガラク
タ収集と雑貨販売と趣味の物づくりを続けていたが、十
五年程前に店の管理は子供の時分からガラクタ好きだっ
た近所の青年に譲り、当人は階上に住みながら、たまに
旅行に出つつ殆ど変わらない生活をしていた。
子供好きだったので玩具なども色々考案していたよう。
あまりこだわってはいなかったが、両親の身元や血縁の
有無は結局分からなかったようだ。
さして病気らしい病気もしなかったが、この数年後に風
邪が元で亡くなる。

■御灯透(みとう・すい):
地元で数年間診療所を営んで異変時のアフターケアを
していたが、その後各地を回って医療活動をしつつ、
可能な限り結界の管理・修復をし続けていた。
活動の傍ら、一般人から聞き集めたBC異変に関連した
事柄・結界に関する事柄を収集してそれぞれを纏め、
つい最近数十ヶ国語への翻訳を完了し、自費出版して
各地に配布した。箱に入れたのはそれの元になった
手書きの覚書纏め。
暁とはずっと仲が良かったようだが、漢語読みが発音し
づらいので「あかつき」と呼んでいた模様。
終生健康で長らく活動を続け、これから二十年程後に亡
くなる。

20060602fn:up




○偽追加RA風にしてみました。
 恒例の(笑;)アフターフォロー文です。

★蛇足的補足


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