戴きものの [glow of dawn in you.]の 行き当たりばったり&大変ラフいifな続きのようなもの。 元文のシリアスブレイクにつき閲覧注意lllorzlll |
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[Winter White] 「やっぱり永遠はいらない」 前とは違って、背を向けたままではなく投げ掛けた言葉にも答えてくれ たけれど。 マスターはそのまま私の手を引いて、刻々と夜明けの近付く岬から遠ざ かろうとする。 “今は一緒に居てもいい”と言ってくれたのだと思うが・・。 結局、私の方が“ずっと一緒に居たい”と言ってほしいんだろうか、と 内心こっそり溜息をつく。 ・・・自分こそ、 『貴方は 私の食糧(エサ)です』 としか言えないのに。 理由が無いと、ただ触れることすら躊躇するのに。 小心で愚昧で。 俯瞰するものがもしもあるのなら、滑稽極まりないだろうな。 「・・・マスター」 口中で呟くように呼んだ。 「・・マスター」 もう一度、小さく呼んだけれど。 引き返すことに専心しているのか、振り向かない。 歩調が緩まないから、岬からの道が切れる場所はもう直ぐそこだ。 「・・・・・ マスター!」 引かれている手を握って逆に引いた。 「・・っとっ! なんだよ!?」 毛布を旅人の外套のように羽織った背が、バランスを崩して慌てて立ち 止まろうとする。やや仰のいた姿勢の、砂礫の地に住む民を思い起こさ せる風に口元を半ば覆っている隙間から、掛け直していた色硝子の眼鏡 越しに見慣れている筈の瞳が見返していた。 答えようとして、呼び止めた理由は何だったのかと考える。 ・・・・・。 もう少しだけ、あのまま居たかった。 ・・・・のか? 「・・・。 チェリー?」 向き直って、岬を背にする私を無意識に遮蔽物にするような仕草で寄っ て覗き込む表情が不思議そうにする。 「どした? ・・なあ、寒いから車に帰ろう? うっかり俺が灰になったら、またおまえメシお預けになるんだぞ?」 「・・・そうですね」 もう一度手を引かれて、おとなしくついて行きながら今度は普通の音量 で呼び掛ける。 「マスター、この後は休まれますか?」 「・・そうだなー。 とりあえず寝る〜」 仕事も終わったことだし、もう帰るんだろ? と後に続いた、肯定が返るとしか思っていないのだろう確認の響きに。 ふと。 「・・・・いいえ」 と答えた。 「え? まだ何か用事あったか? それとも別件か?」 辿り着いた車の傍で手を離し、ロック解除して後部ドアを開けながら、 頭の中で思い出したことを可能にする算段を始める。 ・・・今までやろうとしたことが無かっただけだ。 どうにか出来ない事は無い筈だ。 「私用(しよう)ですよ。 貴方の御要望はききましたから、今度はこちらに付き合って頂きます」 「・・・へ? 何処・・っていうか何の?」 「・・・起きたら解りますから、とっとと寝て下さい」 車に辿り着いて気が抜けたのか、暢気にふぁと欠伸をしている彼を中に 押し込んでドアを閉める。・・・全く、車窓には遮光シートしか無いの だというのに。 「・・その言い方で安心出来るわけないだろーがっ」 一旦宿に戻ろうと車を発進させても、まだ納得していないのか覆いを掛 けた棺の中から暫くごねていた彼が漸く静かになった頃。 ひと気の少ない海沿いの風景は、すっかり早朝の光で晴れ渡っていた。 *** 「起きて下さい、マスター。 時間ですよ」 「・・・・ん、・・んー?」 既に蓋が開けられていた棺から身を起こし、まだ眠い頭で目を擦ってぼ んやりと周囲を見回す。 見覚えのある、拠点にしていた宿の部屋だ。 「・・・・・。 まだ陽が沈んでないだろ?」 ロールスクリーンの陰から覗く光を目線で指して疑問符を浮かべる。 「ですよ。 ・・だから。 はい、コレを着て下さい」 手渡されたものは、ライディングスーツらしきもの、だった。 模様もロゴの類も特に装飾らしいものも無く、構造的な段差などがある 以外は均一な黒銀一色だ。朧気に鈍く光を弾(はじ)いている。 「なんだ、コレ? ・・・」 ふと、棺の脇に片膝をついているクリスを見直すと、生地が違うが白っ ぽいほぼ似たようなものを着ている。 ・・・・妙に似合ってて様になってるけど。 脇にフルフェイスのヘルメットが二つ置かれているということは、普通 の車じゃなくてバイクにでも乗るのか? 取り合えず自分も着てブーツを履き、セットの手袋も嵌めてみたが。 「・・・。 いまいち似合わない気がする・・・」 ・・・・・・何か凄く口惜しい。 スクエアめで素っ気無いシルエットがいかんのだろうか。 「・・・ぶー 革のジャケットみたいなやつがいい〜!」 「それは遮光生地の実用品なんですから我儘言わないで下さい。 陽が沈んだら、“自前”でお好きなものに着替えて下さって構いません から。 ・・・ほら、一寸動かないで」 襟元の鉤テープの重ねをきっちりと留めてから、同色のメットが被せら れた。 これもごくシンプルな外見のもので、黒色のバイザーの部分は外から見 ると周囲が映っているだけで不可視だったが、内側からは無色透明に透 き通って見えた。 いずれも新品ではなく、登録番号と連絡先らしいものが刻印されている のでレンタル品なんだろうか。 「こんなもん、普通にあるんだ?」 「紫外線対策はヴァンパイアのためだけのものじゃないんですよ」 上からこれまた地味な黒灰色の厚手のロングコートを羽織らせると、仕 上げに首元と顎下をカバーするように極薄の暗緑のマフラーを幾重にも 巻いて軽く結んでくれる。 「・・・・。 スタントのバイトでも引き受けて来たのか?」 「・・・違います。 “私用(しよう)”だと言ったでしょう?」 義手の上に指無しの手袋を重ねるとそのままメットを持って部屋を出た クリスの後に少々おっかなびっくり付いていくと、陽は大分傾いてはい るがまだまだ明るい駐車場の二輪コーナーの端には、タンデムでも十分 余裕な大きさと座席のついたバイクが停められていた。 見た目と部位の感じから、これは舗装路を走るタイプのものだってこと は疎い俺でも一応わかる。 じゃ、車で行けない場所に行く、ってわけでもないのか? 「おまえ・・・バイク乗れたっけ」 「・・・以前は時々使ってましたよ。 荷物は積めませんが、色々利点はありますし。 今は、貴方が同行するから車じゃないと都合が悪いだけです」 先に乗ってメットを被ったクリスに仕草で促されたので、そろりと後ろ に乗ってみた。 自分で背後から懐くことはよくあるが、こういう状況は珍しいので何と なくどうしたものかと思う。 「・・・・。 いい加減行き先教えないと、セクハラするゾ」 軽く胴に両腕を回して尋ねてみたが。クリスは、 「後ろの方が事故った時に危ないので、それでも宜しければどうぞ?」 と平然と言い放つとエンジンを掛ける。 「・・ヒドっ!?」 「貴方は運転出来ないんだから代われないでしょうが。 弾みで放り出されたりしないように、ちゃんと掴まってて下さいよ」 ハンドルを切る気配に慌てて掴まり直す。 ・・・ま、いっか。 ミステリーツアーってのも嫌いじゃないしな。 海沿いの道路を走り続け、空の色が変わって来た頃。 ちらと目を遣った携帯ツールを閉じたクリスは、前後を確認してから陸 側に伸びていた脇道に乗り入れる。 舗装が綻んでいて急に不規則に揺れたので思わず腕に力が篭ると、微か に笑う気配がした。 久々だという二輪の運転に集中したいのかクリスは殆ど喋ろうとせず、 俺も車に同乗しているのとは勝手が違うので結局背に凭れたまま時々独 り言のように零しながら流れていく景色を眺めているばかりで。 居心地が悪いわけじゃないけど、漸く停まった時には少々気疲れのよう な気分に陥っていた。 エンジンを切って降りたクリスが、メットを脱いでこちらを窺う。 「・・・お疲れですか? 済みません・・誰かを後ろに乗せたのは初めてで」 軽く嘆息して目を伏せた表情が夕陽の彩に染まっていて、此処が周囲を 見渡せる高台なことに気が付く。 円形に近く敷かれたアスファルトの端には古びたベンチと網状の屑籠。 それと葉を落とした古木が一本立っているだけの、特に何があるという わけでもない場所だ。この道路の休憩ポイントなんだろうか。 「・・・・なあ、何処まで行くんだ?」 離席中なのをいいことに、手前に進んで計器を眺めてハンドルに軽く手 を掛けてみる。 また少し、笑う気配がした。 「・・いえ。 此処が目的地です」 「ココ? ・・・・・何かあるのか?」 「何も」 「・・・・・・・??」 困惑した俺が見返すと、クリスは向こうを指差した。 「ああ ・・陽が沈みますよ」 バイザー越しにも眩(まばゆ)い光球の端がゆっくりと稜線に沈むと残光 が消え、辺りは急速に夜の色彩に塗り替えられてゆく。 寒い時期で、辺りには生き物の気配も少ない。 荷物入れを開けたクリスが、スパイスの香りがする濃いミルクティーを 保温ポットから注いでくれた。 メットを脱いで、軽くなった頭を振る。 ふうっと息を吐くと中空に白く色が見えて消えて。 冷えた大気が、深呼吸した肺に染みる。 「・・・・。 冬の匂い・・か」 カップを受け取って口を付けると幾つかの匂いの混じる暖かい香気がふ わりと頬を撫でてゆく。 「寒くないですか?」 自分もカップを手にしていたクリスが尋ねると、呼気が言葉につれて白 く形になる。 「・・寒くない」 俺にはイマイチな服だけど性能は悪くないな、コレ。 「そっちこそ、コート無いけど平気なのか?」 「これは防寒仕様ですから」 暫く会話という会話でもないような他愛無い言葉の遣り取りをしている と、ふとクリスが視線をやや上に向けた。 視線を追うと、夜空に浮かび上がる木の枝の向こうに月が見えている。 「・・・。 月の実がなってるみたいだな」 “月をほしがる”“月を手に入れる”と言うのは、無理なことの例えだ が。 枝の丁度いい位置に嵌った月は、まるで少しへこんだ果実のように見え て何となく気軽に手に取れそうに見えたのだ。 「・・貴方にもそう見えるんですね」 「ん?」 「・・・・・いえ。 この辺りの資料をあたっていた時に、写真を見掛けたんです。 ・・・それで」 綺麗に見えるならよかった、と。 呟くような声をかろうじて聴き取って、座席に横掛けして軽く揺らして いた足先を止めた。 「・・・なあ」 「はい」 「もしかして、“沈む陽”と“昇る月”を見に来たのか?」 「・・ええ」 「・・・“何か”あるじゃないか」 「いいえ。 ただの、普通の太陽と月ですよ。 意味はありません」 「・・・」 「ただ、それだけでいいんです」 天気が良くてよかった、と微笑う。 ごく普通の人間同士にとっては、場所を選ばなければ思い立てば朝日を 見るよりも気安い事だろう。 でも、俺とクリスでは。 「・・・・・・ クリス」 そっと呼んで手指の仕草で招く。 金属の馬の背に乗ったままの俺を、間近まで寄って見る暗い青の瞳が、 刻々と位置を変えてゆく月の光を帯びている。 直接触れないように頭を寄せて、耳元で囁いた。 「“月が綺麗ですね”って、言ってくれるか?」 少し不思議そうな表情でこちらを見て、一度月を見遣った瞳が。 もう一度真っ直ぐに生真面目な面持ちで俺の目を見返す。 「・・月が綺麗ですね、マスター」 クリスの声で聴いてみたいと、それだけの思いつきだったけど。 一瞬、茶化すのは止めようかと思った。 ただ、同じように返してみたいとも思った。 けど。 同じものを綺麗だと思えたらいいと、見せてあげたいと。 そう思ってくれただけで十分だ。 ふ、と笑ってもう一度囁く。 「・・・・それ、日本の言い回しでは、 “愛してる”、って意味があるんだそうだぞ?」 「・・・な!」 さっと頬に血の色を上らせたクリスは、真面目に言ったのにからかわれ ていたと思ったのだろう。 怒った表情で、空になっていたカップを俺の手から取り上げた。 「・・・悪ふざけをするなら、今直ぐ帰ります」 「あ〜・・ ゴメンってば! もうちょっと! 月があの枝に届くまで!」 時折道路を通る車の音だけが過(よ)ぎっていた夜の静寂(しじま)に。 そろそろ何時も通りの応酬が、日常のように響いていく。 *** 数日の後。 「・・・マスター! ほんの一寸席を外している間に・・・全く油断も隙も・・ 勝手に私のPCを弄(いじ)らないで下さいとあれ程! 貴方は携帯で十分でしょう」 作業中では無かったからまだマシなものの、迂闊に誤操作されたらたま ったものではない。今度からは離席時には絶対忘れずにセーバーオンし ていこうと決心しながら、ノート型の機体を丸ごと持ち上げて退避させ る。 「あー! ケチ〜・・・ ちょっとくらいいいじゃん!」 「・・・・以前その“ちょっとだけ”で、ご自分がやらかしたことを思 い出してから仰って下さいね・・」 カスタマイズを重ねた機体を“物理的に”もダメにしてくれたひとには 警戒し過ぎるということはない。 「う・・ うー・・・だーって、写真探してるんだもん。 画面が小さいと見難(みにく)くってさ」 「・・・・写真? 何のです」 「馬」 「・・・・は?」 聞き返すと。 届かないよう畳んで機体を頭上に持ち上げている私を見上げて、貸して、 と何かを届かない位置に取り上げられた子供のように椅子に座ったまま 両手を伸ばして無邪気に強請る。 「馬! 何か、バイク乗ったら何となく懐かしくてすっごく馬に乗りたくなった んだが、普通の乗用馬じゃ二人乗り出来ないからなー。 探してた!」 「・・・・・・。 ええと、普通に一人乗り二頭という選択肢は? 夜間に乗れるところは少ないかもしれませんが、それなら然程探さなく ても・・」 「つまんない!」 ・・・何か、妙なスイッチを入れてしまったような。 かつて騎士だったというのなら、馬には矢張り愛着があるものだろうか。 「・・・」 まあ、彼が馬に乗る姿は一度見てみたいというような気はしないでもな い、か。 「・・・・・わかりましたよ。 二人乗りの件は考えさせていただきたいですが。 直ぐ行くなどと我儘仰らない約束をして下さるなら、あるかどうかはわ かりませんが、出来る範囲で探して差し上げます。 だから、もう勝手にコレに触らないように」 「・・・・・ ホントか?!」 ぱぁっと喜んで、勢いよくぎゅうと正面から胴に抱きつかれたので、取 り落としそうになった機体を慌てて持ち直して机に置く。 「・・・やれやれ」 溜息をついて、懐くように服に頬を擦り寄せているマスターを見下ろす。 ・・・何かやらかしている時でなければ、この程度の我儘なら素直に 可愛いと思えるのだが。 「・・・マスター。 取り合えず、離れて下さい。 探さなくていいんですか?」 「・・探す!」 「・・・・はいはい。 どうせ御自分で見ないと気が済まないんでしょう? リビングに行きますよ」 椅子から降りてはしゃぐマスターに忘れないようにと釘を刺しながら、 改めて溜息をついた。 ・・・・・しかし。 マスターがトラブルメーカーであることを絶対に忘れてはならない、 と猛省する羽目になったその顛末は・・・ また、別の話である。 |
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・元文のネタを反転してみた ・バイクで地味タンデム ・有名な月絡みの台詞訳 ・バイク→馬 辺りで出来ています。バイクも馬もわからナイという無謀。 そしてボケ放題・・。 例の台詞はチャーリーに似合うだろう、と思ったのでつい(殴)。 英語で美しく再翻訳するにはどうしたら・・ “I love you.”を“月が綺麗ですね”と訳したというのは夏目漱石の 逸話として出回っていますが、出典不明なので後世作説。 ロシア小説の愛していると言われた応答台詞を“私、死んでもいいわ” と訳した(原文は違う)のは二葉亭四迷だそう。 因みに、基督教が入ってきた当時の日本語の“愛”という言葉はeroい意味のみだった ため、宣教師による初期訳は“大切”になっていたとか。 大和言葉だと“愛(かな)し”(相手の状況が自分にはどうにも出来ないこと。関心の強い 相手に対する切ない気持ちなど。好意対象のみにいう言葉ではない)とか、“愛(は)し” (“いとしい”(=いと惜しい・過ぎ去り失われる定めのものを大事に思うこと)や“慕わしい” と思うものに惹かれる気持ち)とかがあるようだ。 (「日本語をみがく小辞典・<形容詞・副詞篇> 講談社現代新書 1989 参照) この本では現代語だと切ないとかやるせないというと直ぐ失恋を連想するとか言って いるがそんなこともないと思う。現時点で、いとしかなしを端的に言うと「キュンキュン する」とかだよな(笑)。 うぃきぺに見本画像のある重馬二種(PercheronとShire)はどちらも美馬 だなぁ。あの二人で乗ってみるなら見本のシャイヤーみたいなの似合う かも? バドワイザーCMのクライズデールも可愛いな・w・♪ 20120131: |