[quartz sands]の対 三章+現在 大方レイフロの独り言です |
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「・・ますた!」 ぱっと表情が明るくなって、裸足の足裏が殆ど音もさせずに地下室の石床 を蹴り、元は毛皮の肩掛けだったものを取り合えず何とか服のように都合 して留めただけの格好の小さな姿が一心に迎えてくれる。 ・・最初は本当に間に合わせのつもりだったというのに、随分気に入った 様子でこれがいいと言うからそのままになってしまったが。 出掛ける前にはもう少し位は何とかしないとな。 「待たせたな、クリス。 約束だ、星を見よう」 椅子に置いた包みの片方から、ほら、と星座の図版本と小型の望遠鏡を取 り出すと、本を読んで貰えるとわかったようで大きな瞳が好奇心で輝いた。 「この灯りを持ってついて来い。 大丈夫だな?」 「うん!」 入口の階段の下に吊るしてあった硝子蔽いの付いたランプを外して渡すと、 両手で下と上を確保してから、手首に紐を通して巻き付けるように持った。 火の扱いには十分気を付けろと言ってはあるが、よく考慮していて結構だ。 空いているほうの右手を差し出して、掴まった小さな左手を握る。 さあ、星の声を聴きに行こうか。 クリス。 暫く隠れ住んでいた、夜ともなれば動く人影は無い荒れた教会の廃墟で、 ひとりの子供に出会ったのは。 何だったのだろう。 偶然か。それとも、別の名で呼ぶべきものなのか。 もう“自分のもの”ではない名を忘れたくなっていた人を外れた者と、 自分に“名前”というものがあることを何処かに置き忘れてきた子供。 名無きもの同士ゆえの、一種のモラトリアムのような時間。 ・・・だから。 俺がおまえに“名”を。 そして、 おまえが俺に“名”をくれたから。 もう終りなのだと、気が付いた。 クリス、で良かっただろうか。 クルス、も音は悪く無いとは思うのだが・・でも少々別のものを思い出し てしまう気もするしな。 マスター・・は、“こんな所”で俺が呼ばれるには不遜かもしれないが ・・。まあ僅かの間ばかりは許されることを願いたい。 覚えておこう。 この幸いな夜の日々を。 「・・! ますたー? どこいくの?」 連れて行かれた場所が、壊れてはいないが何となく見慣れた教会に付属し た建物で、如何にも好々爺といった雰囲気の小柄な院長に安心したのか。 来客用のソファセットにおとなしくちょこんと腰かけて甘いホットミルクにチー ズ入りのビスケットを浸して頬張っていたクリスが、何時ものコートを羽織っ てドアから覗いた俺の姿に、慌てて口の中のものを飲み込んで尋ねた。 「ああ。先刻、星を見ていた時に話したろう? あの古本屋にもう一度行って来る。 一寸気になる本があったのを思い出したんでな」 「・・なら、いっしょにいきたい・・!」 きゅ、と横に置いてあった帽子を掴んで。 半分不安、半分好奇心で表情が揺らいでいる。 ぷ、と笑ってみせた。 要らない心配事のように。 「駄目だ。 おまえはそれを全部食べて、それから風呂に入って着替えないとな。 本屋はまた明日、だ」 「・・・」 瞳が伏せられて、酷く困ったように考え込む。 どうしたらいいのかと思っているのだろう。 溜息をついて。 「仕様が無いな。 門の前までならいいぞ。 こういう時は“行ってらっしゃい”と言うのだ」 わかるだろう?と尋ねると。 「・・・・・・。 ・・・・・・・・ ・・・うん!」 嬉しそうに言った小さな手を取って、門の手前まで。 「ではな、“行って来る” クリス」 「・・“いってらっしゃい”! ますたー!」 院長と並んで、元気良く手を振る姿に。 軽く手を上げて笑顔を返して、前を向き。 ・・・・嘘つきの俺は、二度と、そこへは戻らなかった。 *** ふと、記憶にあることに気付いて。 歌を口ずさむ。 ・・・異国の言葉だ。 何故、俺はこれを知っているのだろう。 「♪赤い目玉の 蠍 広げた鷲の 翼♪」 「♪あかいめだまの さそり ひろげたわしの つばさ♪」 膝の上のクリスが、本の頁の星図を指で指して楽しそうに真似る。 ・・クリスに意味を説明しただろうか。 何だかよくわからん。 でも・・・何故だかとても上々の気分だ。 「♪小熊の額の 上は 空の巡りの 目当て♪」 「♪こぐまのひたいの うえは そらのめぐりの めあて♪」 最後まで歌い終わり、笑って小さな身体を抱き締めた。 「ク〜・リス。 えらいぞ、星を見る事を覚えておけば、もしも広い場所で迷った時に役立 つかもしれないからな」 「・・うん!」 嬉しそうに歌いだす声に、今度は俺が合わせて。 青い目玉の小犬、はどことなくおまえと似ているかもしれない。 空を見る時、思い出すことにしようか。 「・・・・ん」 ふ、と目を開けると見覚えのある“自分の部屋”だった。 体内時計はまだもう暫くは夜の領域だと感覚に教えている。 カーテンはきちんと閉じてはいるが、そろそろ気を付けないとな。 部屋の照明は消えていたが、動きに反応して仄淡く灯る小物のミニランプ の光の中で伸びをして、転がりかけたぬいぐるみのぱんだ君を置き直し。 はて、そういえば、と首を傾げた。 寝る前に・・・確か。 きょろ、と視線を巡らすと付けていた筈のヘッドフォンはデッキの脇にき ちんとコードを束ねて置かれ、硝子瓶は棚の小物の並びに載っている。 ミネアは、俺が居る間には希望されたのでなければ余り部屋の物を動か さない。誰の仕業かは考えるまでも無いな。 「何だー? 片付けだけしてったのか? ・・・あれ」 ドアにメモ用紙が付いているのが見えたので、立ち上がって歩み寄る。 日付と出発予定時刻、行先と車で行くこと、が簡潔に几帳面な文字で綴ら れていた。 「・・・ 律儀だな」 まあ、教えなかったら俺がゴネるわけだが。 ・・・・ふと。 夢でみたものを思い出す。 そうか、あれは“ありえない”ことだ。 あの時にはまだ“存在を知らない歌”だったのだから。 寝る前に聴いていたとはいえ、本当に自分が覚えているのかどうか半信 半疑で、そっと口ずさんでみたけれど。 「・・・・・。 覚えてる、よ」 もしかして、これが睡眠学習というやつだろうか。 「あは・・・はっ」 夢の中の気分が蘇ったのか、急に何だか楽しくなってきた。 これ、ホンモノのクリスは多分、知らないよな。 「・・・・よし!」 星を巡る歌を歌おう 赤に青 光の色を 海行く旅人を導く 北の空の灯りまで 懐かしい想い出と共に ・・・どうか 今一度(ひとたび)の猶予期間(モラトリアム)を |
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qsの対。 ・・というわけで混ぜたネタの本来の目標、“三章レイフロ”+夢です。 重要ポイントの口調が単に真面目寄りになっちゃった気がするがlllorzlll ムズカシイヨTT 三章情報纏め。 ・一緒に居たのは半月ちょっとから一ヶ月くらい ・冬の話をしているので秋頃 ・最初は布を着てるのであのもこもこはレイフロが着せた よく見直したら最初にレイフロの肩に掛かってるあれか 鋏が入ってる箱が裁縫箱っぽいので適当に糸とか革紐で止めたのか? (髪を切ろうとするとクリスが青くなっているのは、多分この時針仕事 しようとしたレイフロの不器用っぷりを目の当たりにしていたのかと;) ・名前付けた明日=翌夜に町に行っている ・レイフロ、スーツに着替えてる?(二章冒頭参照) +「・・・そうやって あなたはいつも嘘ばかり・・・」(十章) +チャーリーは去っていくレイフロの後姿を覚えている(十七章。ここで はコート服が見えている) を元に、三章〆図が翌日当夜という方向で推測補完してみました。 向こうのほうには事前に話を通して寄付金渡して、戦災孤児を拾ったが自 分は世話が出来ないから、という事情で承知して貰ったんだろうかな〜と。 クルスは十字から直球な場合な感じ。関連は十字軍(Crusader)。 題名と文中の歌詞は「星巡りの歌」(作詞作曲:宮沢賢治/双子の星・銀河 鉄道の夜など)から。詩のみの原文参照はコチラ(青空文庫)等。 訳がsong of・・・何?で詰まったのでWeb翻訳幾つかしてみて、ぐーぐる さんのをTourの単語がそれらしいかもと選んでみました。 この歌については実際の星の描写と違う(プロキオンは青ではない・熊の足を延ばす位置 では×・額の上ではなく尾の先に来る 、とか)etcなど色々謎があるようですが、別の意味 があるのかは不明なのです。(青眼については大犬座のシリウスから、その“子犬”という こともあるのかも?) 話のほうはこの後、眠ってるチャーリー起こして歌を教えようとして叱ら れる(笑)。・・・でも後で、車で移動中に暇だからと言い出して覚えてく れるということで・w・♪ 20111121: |
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