[Black Rabbit]と同設定の続きのようなifif。 レイフロさんがぐだぐだしてるだけのような。 |
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[Poisson d'avril] 「クリスのばか! あほんだれ!!」 リビングのソファでクッションを抱え込んで、ぼすぼすと八つ当たり のように拳を叩き込んでいた手が手応えが足りないようにソファに移 る。 暫く続いていた音が漸く止んで、ぽすん、と叩いたそれは失速して落 ちた。 「・・・・」 家の中はしんとしていて、物音ひとつしない。 *** 原因は、まあ大したことじゃなかったと思う。 でも、変な時間に起き出して落ち着かずにぐだぐだしていた俺の気分 も言い方も悪かったし、何やら忙しくしていたクリスも機嫌が良くな かった。 「いい加減にして下さい!!」 「・・・」 その手前に言われた言葉に納得出来なくて不服を表して、ソファを占 拠したまま黙っている俺の態度に、クリスはどうやら堪忍袋の緒が切 れたようだ。すうっと表情が薄くなる。 くるりと背を向けてリビングのドアに向かう。 開けた扉の向こうからは、様子を窺っていたのか心配気な表情のレイ モンドがこちらとあちらに視線を投げ掛けた。 「あの・・」 仲裁を試みようとしたのだろう声を遮るように、クリスが話し掛ける。 「ああ、レイモンド。 丁度良かった。先日の話なんだが」 はい、とそれだけで何の件か理解したらしい彼は真面目な顔になって 携帯ツールを取り出すと、手元で操作したそれの画面をクリスに向け て差し出した。 そうしていると普段着っぽい服装でも秘書みたいだな、とドア枠の向 こうの場面を眺めていると、何か確認し終わったツールを彼に返した クリスがこちらに半分だけ向き直る。 「マスター」 「・・・」 「マスター」 同じ音程できちりと繰り返されるのは一寸怖い。 「・・・・なんだよ」 「彼と一緒に少し出掛けて来ます。 陽が落ちるまでまだ大分ありますが、ミネアが帰るまでお一人で大丈 夫ですね?」 至極平静な表情と確認するような響きに、少し落ち着いて来ていた筈 の気分がまた苛立った。カチンと来て言い返す。 「・・俺を何だと思ってんだ。 居なくて困るのはおまえのほうだろ? ・・・・・好きなだけ行ってればいいんだ」 そっぽを向いた俺に、間を置いて沈黙が落ちた。 「・・・・・・。 そうですか。 では、・・“数日”不在にするかもしれませんので」 レイモンドはどうしようか迷うような困った表情をしていたがクリス に促されて、こちらに「行って参ります」と挨拶すると丁寧にドアを 閉じた。 荷物を用意するように行き来する様子がしてから、玄関が開閉する音 のあと二つの気配が遠ざかって行き、静かになる。 「・・・・」 レイモンドのクリスと俺を交互に窺う様子を見て機械仕掛けの犬のこ とを思い出したが、サクラは久し振りなのだというベースプログラム のチェックに行っていて昨日から居ない。 ミネアも周辺地域の把握のために今日は夕方まで帰らない予定だ。 完全に一人きりの状態だと気付いて、何となく溜息をつく。 読み掛けていた本は終わったところだったし、TVを見る気にもなれ ない。 何時もだったら、大概他にだって何かしら思い付くことはあるのに。 頭がろくに働いてくれそうにもない。 いっそ夜まで眠り直そうかとも思うのに、どうしても気乗りがしなく て。 「・・・・・。 ああもう、風呂入ろう、風呂っ!!」 香料を選んで、それなりに浸かって温まったかと思うのに。 気分転換し切れて無いし、相変わらず落ち着けない。 時計の進みが酷く遅い気がする。 リビングのカーテンの向こうは相変わらず太陽の気配に満ちたままだ。 バスローブの格好のまま、適当に髪を拭いながらソファに転がり直す。 ・・・こんな時、クリスが此処に居たら、そのうちに溜息ついてその辺 を濡らすなという意味の事を言いながらきちんと髪を拭いてくれること もあるのに。 構われるのも世話焼かれるのも、小言や叱責交じりでも悪く無い。 俺もクリスの世話焼いてみたいなと思うことはあるんだが、日常の些細 なことだとあんまりなぁ・・・ 余計な事して怒られた記憶は枚挙に遑 (いとま)が無いし。 ふと、怒っていた表情と声が脳裏に浮かんで。 どうしてあんなに怒られたんだっけ、と思い返そうとしてみるが、あん まりはっきりしない。 何だか理不尽な気がして暫くクッション相手に八つ当たりをしてみるが、 手応えが足りなくてソファを殴ってみたところでその感触に思い出すも のがあって、拳は勢いを無くして落ちた。 ・・コレ、実物見て選びたいって駄々捏ねて、一緒に見に行ったんだっ けな。 はしゃぐ俺を叱りつつ、「以前の“寝台の時”と違って貴方だけのもの じゃないんですから、私が納得しないとダメですよ」と釘を刺していた けど。 あれこれ眺めて触ったり座ったり時々手を引いて同じようにさせようと するのを、仕方無いなというように溜息をつきながら付き合ってくれる 表情も瞳も明るい色を浮かべて優しかった。 すん、と生地の匂いを嗅いでみると、まだ新しいから前の馴染みのや つ程じゃないけど。クリスの匂いと、ミネアの匂い、サクラのナマモノ じゃない独特の匂いと。 それから、自分のものに似てるんだろうレイ モンドの匂いもする。 急に、独りきりだと身に染みて、静けさが耳に付いた。 ごくごく普通のアパートメントで同居を始めた当初は、まだ余り新し い位置関係にも慣れていなくて狭い狭いとよく文句を言っていたけど。 何時の間にかこの距離感にも慣れてしまっていたのか、現在居る似た ような間取りの此処でも違和感は無い。 無いけど・・・無さ過ぎて、改めて無性に腹が立った。 でも。 ちくりちくりと胸の奥を刺すものが、さびしい、という気持ちだとい うことは本当はわかってる。 普段なら、ほんの少しの間でこんなに強く思うことは余り無いのに。 う〜とクッションの陰で低く唸ってから、半身を起こす。 「・・・留守番の子供(ガキ)じゃあるまいし」 なんでこんなに、心細いんだろう。 まだ陽が落ちてないからか? 嘆息して、“何時もの服”に着替えてケットを持ち出してきて羽織る。 やっぱ、寝不足なのかな。 でも、眠ってしまいたいのに、眠る気になれない。 もう一度転がって、益体(やくたい)もない事を熟々(つらつら)と考 える。 ・・・・・クリスは。 以前は、サクラこそ居たものの一応ずっと一人でやってきていたんだ。 “食事”以外のことでは、本当は俺が居なくてもどうにかなるかもし れない。 誰かと協力することだって、今なら頑なだった以前よりも難しくはな い。 そもそも、“食事”だって。 クリスの意志がそれ以外を選べば、俺は不可欠じゃない。 ・・俺の血じゃなきゃ嫌だ、と生命(いのち)を賭けて執着してくれ るのは何だかんだ言っても心配はあっても、嬉しいけど。どうしても 罪悪感が付き纏う。 俺は、・・・クリスが好きだ。 クリスが好意を示してくれるのは無論嬉しい。 でも。 彼が全てを賭してくれようとするのに。 俺は同じように返せない。 守りたいと思う庇護欲と他のものが入り混じった想いは、おまえが俺 を守ろうとしてくれる気持ちにもきっと負けないけど。 けれど。 “共に生きたい”というおまえの願いに。 素直に応えるという、ただそれだけのことが、出来ない。 時の流れから切り離されているように見える身でも、ベースはあく まで人間で。元からそのように出来ているいきものと違って精神が変 化し難いわけじゃない。 たった一年前のクリスと今のクリスが明らかに違うように。 何時の間にか、この距離感の生活に馴染んでしまっていた俺のように。 一世紀を越えて俺だけを思い定めたあいつがそうそう揺らぐとは思 わないけど。 変わらないものなんて、きっとない。 想いや誠意なんて確かなものじゃない、なんて、そういうことじゃな くて。 ただ、あいつは、俺のせいで他の選択肢に目もくれずに来てしまった だけじゃないかと。 此処に至ってすら、そう思うから。 ・・・・・・本当に、別の方を向かれたらどうか、なんて。 改めて手を差し伸べられた今、考えたくもないのに。 おまえが付けた名で俺を呼んでくれる、その声無しには。 きっと、夜(よ)も日も明けないだろうに。 ・・・矛盾に馬鹿馬鹿しくて、笑うことも出来ない。 そういえば、なんの用事だったんだろう、と今頃ぼんやり考える。 数日・・ってどんだけだ。 まあ、レイモンドが一緒だから、クリスが怒ってても後でこっそり予 定を知らせてくれるかもしれないけど。 身の振り方が決まるまで一時預かりのような形になっている、俺に よく似ていても気質は似ていない彼を邪魔だと思ったことは無いけれ ど。 そのうちに彼が去ることになったら、前と同じになるのだろうか。 それとも、既に色々変わってしまった現在、日々が過ぎるようにこの 状況も変化するのか。 変わらないようで変わる居心地の良い場所は、何時まで再び“日常” であってくれるのだろう・・・。 何時の間に眠っていたのか。 夢現な朧気に遠く、呼ばれた気がした。 でも、ひどく疲れていて眠くて眠くて。 暖かくて、知っている匂いのするものが傍に在る。 その気配に安心して息をついて。 もう一度、意識の一片(ひとひら)を手放した。 *** 「・・・・・」 目を醒ますと、見慣れた棺の中だった。 このパターンは、記憶に無くもないケド。 眠りながら腕に抱え込んでいた馴染みの無いものは、ふかふかしてい て細長い形の綿生地か何かの大きなクッションのようだった。 なんだ、これ。 まだぼやけた頭で考えて、掌で輪郭を辿ると半円形の袋状の襞のよう なものが幾つも縫い付けられているようだった。 ぎゅう、と抱え込んでみると、知っている甘い花の香りがする。 精神安定や安眠を誘うといわれているとても有名な香り。 すう、と呼吸してみる。 その中に、微かにクリスの匂いが混じり込んでいて。 ・・やっと、意識がまともに覚醒する。 「・・・・!」 数日、って言ってたクリスがこれを持って来たとするなら、俺は一体 どんだけ眠ってたんだよ?! 慌てて蓋を押し開けてみると、照明の点いていない部屋はカーテンが きちんと二重に引かれていて暗かったが、ふと奇妙な感じがして動き を止める。 棺は・・間違いない。俺の棺で、見覚えているものだ。 でも、部屋が違う・・・ような? 何かの都合で棺を移動した、というようなことも有り得なくは無いが、 今居る“家”には現在視界に映っている内装の部屋は無い。 空気も・・・何だか生活臭がしない。 普通の“家”は、建物の匂いとそこに居るものの匂いが混じったもの が漂っているものだ。 それに、棚が置かれているがそれには何も入っていない。 でも、ほんの微かにだけど覚えのある匂いが幾つかしている。 少々困惑しながら腕に抱えていたものを見直すと、それは青緑を基 調にした“魚”だった。丁寧な造りに大きな鱗が一枚一枚別の模様の 布でパッチワーク風に飾られている品で、ひとつが隠しポケットのよ うになっていて乾燥ラベンダーの小袋が入っていた。 「・・・・・・・・??」 形状的に、装飾を兼ねた細長いクッションか抱き枕なんだと思うが。 なんで“魚”なんだ。 別にデザインがリアル怖いとか可愛く無いとかそういうことじゃない んだが、単純に、自分が持つものとしてはいまいちイメージし辛かっ たのだ。 俺は、今、本当に起きている・・のか? ドアの外でごく軽い足音がして、ノックの後に聴き慣れた声が響く。 「レイフロ様、お目覚めでしょうか」 ミネア、だよな。 「・・レイフロ様、入っても宜しいでしょうか? 荷物を運んで来ましたので」 ミネアには以前の件の後に“夢魔”の例のことを説明したので、俺の 応答が無い場合は何度か呼んでみてくれ、と頼んである。 確かにミネアだな、とほっとして応じると、布袋を両手に提げたメイ ド姿のミネアが失礼致します、とドアを開け放したまま入って来て。 造り付けのクローゼットを開けると、棚と同じく空っぽだったそこに、 袋から俺の(普通の)服を丁寧に取り出して収納し始めた。 その様子を眺めながらふと、気付く。 眠る前と違ってクリアな感覚が、普通に眠ったのなら体調から考えて “数日”経っているとは思えないと脳裏に囁いた。 “断食”ペースが習慣のようになっているクリスと違って、こちらは こまめに輸血用血液を摂取することでバランスをとっている。 “眠り”で回復するものは確かにあるけれど、“空腹”はそれとはま た別の問題なのだ。 そして“外”には夜の気配がしている。 ・・・・・・つまり。 「・・・。 えーと、ミネア。 クリス、帰って来てるか?」 何と尋ねようかほんの少し迷ってからそう聞いてみると、 「もう直ぐお帰りかと思います。 先程、あと一回分だと仰っていましたので」 ・・・・・。 何となく、状況の見当はついた、ような気はするんだが。 今の家にはまだ大して持物が無いから、大きな家具以外は自力でもそ う時間は掛からないだろう。 でも、何で急に? 「・・・あ」 ふいに、レイモンドが見せていた何か、に思い当たる。 それってつまり、俺に内緒で決めてたってことか? サプライズされるのは嫌いじゃないけど、まさかあの怒ったのもわざ とじゃないよな・・。 ぐるぐるし掛けていたところへ、玄関が開いたのだろう音がして。 「只今帰りました」と挨拶する声に、わん、と小さく吠えて出迎える 足音がした。 思わず、“魚”を片手に掴んだまま立ち上がって裸足を構わず玄関ま で走る。 「・・・あ、マスター」 俺を認めて、少々ばつが悪そうな表情でもう一度帰宅の挨拶を言い掛 けたクリスの腕を取ると、リビングだろう部屋の見当をつけて引っ張 って行く。 明るい照明の光に満ちている其処には、あのソファがちゃんとあって。 やっぱり、緊急退避的に移動したわけではなさそうだった。 「・・・・・・」 どん、と片掌で胸を突いてソファに座らせると、真正面から膝の上に 跨るように乗って折った両脚で保定する。 玄関からついて来ていたサクラが何事かと入口近くで様子を窺ってい る気配がするが、苛めてるわけじゃないから構わなくてイイぞ。 「ちょ・・マス・・・」 ・・・ちゃんと経緯を説明するまで逃がさない。 じとり、と睨んだ視線と胸元に押し付けた布魚だけで、大体言いたい ことは理解したのだろう。 額を抑えて、はぁ、と溜息をつくとクリスは口を開いた。 「・・・・・相談無しで決めて、勝手に連れて来て申し訳無かったで す。 ・・でも、緊急性が無い件では、マスター交えると決めるのに大分時 間が掛かりそうだったので」 家具のひとつくらいならいいんですけどね、と苦笑した表情に、どう いう意味かわかってむくれる。 何だよ! ・・・でもとてもやりそうなので、それについては言い返せない。 「・・・・・・・。 わかったよ。 だけどさ・・ なあ、おまえ、今でも俺のこと“ただの食糧(エサ)”って言う?」 じ、と瞳を覗き込むと、驚いたように瞬(まばた)く。 「・・・いえ。 もう、言いません」 真摯な表情が、真っ直ぐ見返してくる。 「・・・・うん。 此処の“場の主(あるじ)”はおまえだから、決めるのはいいんだ。 けど、俺を“同居人”だと思ってくれるのなら。 “言って”くれないと、やだ」 重くなり過ぎないように最後を茶目化すと、はっと胸を衝(つ)かれた ように瞳が揺らぐ。 「・・・・すみません。 元から言わないつもりでは、無かったのですが。 今日になって本決まりしたので・・・」 怒った弾みと勢いで、つい、と俯く。 「・・・・買い言葉のようなものでしたが、“数日”出るなどと嘘も ついてしまいました。 だから・・・その、“魚”は“お詫び”のつもり、なんです。 4月1日じゃないですけど、“April fool”だと思って許して下さい ませんか・・?」 懇願するような眼差しを向けられて、やっと気が付いた。 「ああ・・・成程。 “四月の魚”か!」 フランス語で言うApril foolはPoisson d'avril(ポワソン・ダブリル)で、 名前に因んで時期には魚型のパイや菓子・特製の魚料理などが作 られる風習があるのだ。 まあ、思いついたところで急に只の普通の魚じゃないそういうものを 用意するのは難しいだろうし、クリスは余り食べ物は選びたがらない だろうけどな。 ・・・どこでこんなもん見つけたんだか。 忙しくしていた合間に更に手間を掛けたのかと思うと、これ以上は言 うつもりは無かった。 「うん・・・。 ありがとな」 動けないように保定していた脚の力を緩めて、すみません、と俯いた のを宥めるように金色の髪と頬を軽く撫でてみる。 「・・・・でも。 元々検討してたみたいだけど、急に引っ越した“理由”って何なんだ ・・?」 「・・・それは、」 少し躊躇うように言い掛けた時、背後から声がした。 「“窓の向き”、なんです」 顔を振り向けると、車から運んで来たのか荷物を抱えたレイモンドが 開けっ放しだったドアの陰からサクラと一緒に覗いている。 「・・・先の家は当座と言うことでそこまで気にしていなかったんで すが、東西の窓が広くて結構陽当たりが良いので。 もしかしてご不調の原因のひとつではないかと考えられて・・」 控え目に、だが精一杯一生懸命説明しようとしている声。 ・・・・。 それって、つまり、俺のコトで? 向き直ると、小さく溜息をついたクリスが続きを引き取る。 「・・・・余り、貴方は自覚が無い部分もあるようですが。 太陽と月の影響で、“時差ボケ”を起こしたり、睡眠リズムや気分が 不安定になり易くなったり。 匂いに敏感なので、一時的でない環境変化の際に慣れるまでに時間が 掛かることもあるみたいですね」 思い当たる・・・かも。 「・・・眠れない状態の相手に、寝なさい、みたいな強制の言い方を したら承服されないのは当たり前でした・・。 レイモンドに貴方の不興の原因を尋ねられてから気が付くとか・・・ 心配していたつもり・・だったのですが。 当人に通じていなければ意味が無い」 本当に、怒って悪かったです・・と俺の仕草に倣うように髪を撫でて くれる手に、理由も腑に落ちてほっとした。 「・・・なーんだ。 そっか」 ならいいや、と改めてクリスに懐こうとすると。 安堵した様子でこちらを見ているレイモンドと、遊んで貰いたいのか 座って尻尾を振っているサクラを気にしているのか、 「・・あの、マスター。 取り合えず横に座って・・・」 膝から俺を下ろしたいようだ。 ・・・・サクラはおいとくとして。 此処は家だし、レイモンドにはのっけに“食事”風景をアタマからオ ワリまで通しで見られてるんだから、この程度今更じゃないのか? やだ、と言いたかったがまあ、こういうのの線引きは感覚が違うもの だし、クリスは元々注目されるのは余り好きじゃないから仕方無いの か。 ちぇっ、と呟いて渋々横に移ると、クリスの腕に背を凭せ掛けて胡坐 をかいてソファに頭を預けた。 懐き足りない気分で布魚を代わりにぎゅうと抱え直してみると、ふわ と立ち上った甘い香りの空気に、ふと思い出す。 「・・・そういや。 俺ってこの魚と一緒に棺に詰めて運ばれたワケ?」 ヴァンパイアと魚(のぬいぐるみ)入りの棺なんて、何だかとてもシュ ールなような気もする。 「・・・ああ、まぁ」 クリスは何故だか返事が曖昧だ。 リビングに入ろうとはせず屈んでサクラに何か話し掛けていたレイモ ンドが、立ち上がると長閑(のどか)に微笑って言い足す。 「棺とは別です。 背負って来られましたから」 ・・・・・・・・。 それほどの距離じゃない、んだろうけど。 あっちの家から、此処まで? 歩いて? ・・・ってことは。 あの何か夢現の記憶は。 「・・・・・」 反転して眺めると、クリスは照れたような困ったような顔をしていた。 「・・では、荷物を片付けて来ますね」 パタン、と軽い音を立ててリビングのドアが閉じられて。 二人きりで取り残される。 どこかの錬金術師の弟子と違って空気読んでるのか。 それとも、只の天然なのかわからないが。 ・・・ま。今はそれよりも。 「クリス。 俺、寝てたからわかんない。 ・・・も一度!」 背中に掴まろうと手を伸ばすと、 「家の中で背負って運ぶ必要無いでしょう・・!」 「・・・じゃ、棺まで♪」 「まだ寝るんですか?」 「そんなら・・ おまえのベッド、までv」 「・・・・・腹はまだ減ってませんからっ」 照れ臭いのか必死で断ろうとするクリスが可笑しくて、可愛くて仕方 が無くなって。 暫く、新居のリビングを言葉遊びのような応酬が飛び交い続けたのだ った。 |
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没に限り無く近いのですが置いておいてみるlllorzlll ・エイプリルフール全プレネタ想定を並べてみたifパターンとして思 いついたので元々は “口喧嘩してレイモンド連れて出て、帰るかもわからないチャーリー。 レイフロはまさか・・と悩むけど、実は4・1で、我儘を窘めたいチャー リーがレイモンドに付き合って貰っただけ” というギャグ?ネタだったけどかろうじて一部分のみ; ・構成は瞬発力だけで出来ています 細かい部分は後で筋に合わせて詰めたので大分力技・・・lll ・[Black Rabbit]の後っぽい感じで設定は共通です。 ので4月以降想定。 鷹巣脱出後+何らかの対処は出来ているが完全に落ち着いた状況では 無く以前とは別の場所に仮住中+レイモンドは一時同居中 (本編の進行上、そろそろこの設定の続き想定するのが困難になるか もしれんので今の内・・) ・マクラぎゅー+ラベンダー ラベンダーの匂いは自分が好きです(笑)。 虫除け効果などもありますが、高地のラベンダーは虫が少ない分 安定効果のほうが強いそうなので、入ってたのがそれだと良いな ・w・♪ ・“寝台の時”は音源ヘリオ同収Redemption、 錬金術師の弟子、は3巻付属CD参照。 20120220: |
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