![]() 「オペラ座の怪人」 著:ガストン・ルルー 訳:日影丈吉(ひかげじょうきち) 早川書房/ハヤカワ・ミステリ文庫 19890515 初版・19980430 十二刷 クリスチーヌ・ダーエ: スカンジナビアから流れてきたスウェーデン人の才長けたヴァイオリン 楽師の父に育てられた一人っ子で、優れた歌い手の技量と才能を持つ。 美しい容貌の金髪青眼の娘。父と親しかったヴァレリウス夫妻の夫人と 慎ましい暮らしをしている。 父の死の喪失感で目立たず封じられた才のまま音楽学校を卒業してパ リのオペラ座に勤めるが、エリックに見出されて声だけの彼を“音楽の 天使”と信じて三ヶ月のレッスンを受けたことで封じられていた才能を更 に磨き、突然羽化した天使の声を持つ歌姫として話題を席巻するが・・・ ラウル・ド・シャニー: 子爵。二十一歳だが十八くらいに見える壮健だが細身で初々しい雰囲気 の金髪青眼の青年。生まれたときに母を亡くし十二の時に老父も亡くし たため、主に二人の姉と伯母に育てられた。海軍に所属する船乗り。 数年前に行方不明になった船を捜す極地探索行の航海に加わることが決 まっていて、半年間の予定の休暇中に兄に遊びに連れ出されていた。 クリスチーヌとは子供の頃に滞在中の海辺で出会って遊んだ幼馴染。 成長後に会った折、互いの変化に戸惑って一旦疎遠になっていたが・・ フィリップ・ド・シャニー: 伯爵。四十一歳。二十歳離れたラウルの兄で怜悧な面立ちの紳士。独身。 家督を継いで苦労しながら妹二人を無事に嫁がせ、父代わりに見守って きた歳の離れた弟の将来に期待しつつ溺愛している。 弟がクリスチーヌに振り回されているのではないかと心配するが・・・ ※クリスチーヌの年齢は本文中に記載がない?(見落とし?) “小さいダーエ”(小さい=子供 〜若手の意味ぽい)と呼ばれていることと、映画情報で十七とあるのを見掛けたのでラウルの 外見の十八と並ぶのでそのへんだろうか。卒業年齢が判れば早いんだが。 Vasのほうではクリスチーヌはクリスティーヌ、ラウルのフルネームは“ラウル・シャニュイ”の 表記が使われている。 ------- 4巻付属CDと併せてこれもスカンジナビアとスウェーデン絡み? 単に揃っただけか。遊びか。それとも意味あるのかな。レイフロ関連とか・・ 「オペラ座の怪人」はパリのオペラ座が舞台だが、Vasで舞台となったのは イタリアにあるローマ歌劇場。 外装はシンプルでいまひとつ愛想に欠けるとも評されているようだが、 ロビー等の内装は白大理石に青の配色に銀の照明、劇場室は金と赤で 落ち着いた雰囲気のある造り。 ローマ皇帝であった“ヘリオガバルス”の邸宅跡地に1880年に建てられた コスタンツィ劇場が前身。(うぃきぺ他参照) ・・・ヘリオガバルス縁の場所だったのか。 以下、原典本文からは元台詞のみ抜粋でVas内の台詞と並べてみます。 【十六章「仮面舞踏会で晩餐を」− 十七章「されどラウルは愛染を謳う。」 より (4巻収録)】 観劇券に添えた無記名の手紙と共に贈られた白基調のジュストコール系 の衣装一式と仮面を纏ったチャーリーが桟敷席を訪れ、文面を口にして 「・・・ガストン・ルルー著『オペラ座の怪人』 その一節のパロディですね」 と、続ける場面から。 ------- |
『親愛なる君へ。 今宵行われるオペラ座の仮面舞踏会 20時に印の部屋へおいでなさい。 この逢引きについてはこの世に存在する誰にも明かさぬよう 仮装用の白いドレスを着ていらっしゃい 我が命にかけて・・・ 誰も貴方と気付きませんように・・・』 「お友だちへ。明後日のオペラ座の仮面舞踏会に、真夜中の十二時、 大休憩室の暖炉のうしろにある小さな客間へ来てください。円天井 (ロトンド)のほうへ行く扉のそばに、佇んでいてください。この逢引に ついては、この世に存在する何者にもお話なさいますな。仮装着の 白のマントを着ていらっしゃい。わが命にかけて、誰もあなたと気が つきませんように。 クリスチーヌ 」 【9章 <不思議な箱馬車>・162頁】 謎の馬車に乗って自ら逢引に行ってしまった、と思い、一途に想うクリスチーヌに翻弄されて いただけかと死にそうに落胆しているラウルの元に届いた手紙の内容。 『だが 僕は奴の顔から仮面を引っぱがしてやる 僕のほうもはずして 今度こそ面紗(ヴェール)も嘘もない顔を突き合せるんだ』 「(前略) だが、ぼくはやつの顔から仮面を引っぱがしてやる。ぼくの方もはずし て、今度こそ面紗も嘘もない顔と顔を突き合わせるんだ。 (後略)」 【10章 <仮面舞踏会で>・170-171頁】 手紙に従って白外套を纏い白の衣装と黒仮面の仮装姿で、頭巾付きの黒外套を纏うクリスチー ヌと逢い、赤色の死者の扮装の怪人を目にしてどうにかしようと激昂して話すラウルの台詞。 この後クリスチーヌに止められて色々勘違いしたり悟ったりと乱高下。 ◆Vasではチャーリー<ラウル>の服が白・レイフロ<クリスティーヌ>の服が赤(扉絵だと赤紫)・ バリー<怪人>は何時もの外套で黒の配色になっています。 赤はVasでは真っ先に血(糧・生命)を連想しますが、ここでは背中合わせの“死”も示しているかも。 それと・・ ※追記--- レイフロの装束はミュージカル.verの2004版映画の“仮面舞踏会”の場面のファントムの衣装 がモデル(確認)。舞台上のラウル役の服もそれモデルで丁度そのシーンのようです。 舞台版は原典とは場面の配列や意味が大分変わっています。 --------- 『秘密を知ろうとしている今 あなたの耳は私のそれの様に歎きで一杯になろうとしている』 「秘密を知ろうとしているいま、あなたの耳は私のみたいに、歎きでい っぱいになろうとしているのよ」 【13章 <アポロの竪琴>・236頁】 屋根上の会話の続き。陽が落ちて穏やかな筈の夜の元で、苦呻に埋もれた状況で夜が一緒に 悲しんでいるようだと言うラウルの台詞にクリスチーヌが返した言葉。 ラウルの言うのは自分 と彼女の悲嘆のことだが、クリスチーヌの言う“歎き”は耳について離れない怪人・エリックの歎き。 『それは違う ・・・僕は少なくとも 君が絶対に教えないと言ったその男の名前を知っている・・・』 『困った人! あなたは殺されたいの?』 『多分ね!』 『ラウル あの<男の声>の事は忘れて 彼の名前を二度と思い出さないようにしなければいけない・・・ そしてもう絶対に・・・ 「それはそうだが、クリスチーヌ、それはそうだが・・・・・・ ぼくだって、あなたがいつも匿そうとしてきた男の名前ぐらいは、 すくなくとも知っていますよ。あなたの音楽の天使は、お嬢さん、 エリックって言うんだ!」 「こまった人! あなたは殺されたいの?」 「たぶんね!」 「ラウル」 「“男の声”を忘れなくてはだめよ。それから、その名の記憶さえも忘 れ、“男の声”の秘密に踏み込もうなどと、もう決して試みないことよ」 【11章 <“男の声”の名を忘れねばならぬ>・188-189頁】 クリスチーヌが子供の頃から親しい保護者であり母代わりの老婦人の前での会話。 立ち聞きして知っていることと、“音楽の天使”の危険性について婦人への説明とクリスチーヌ への追求。この時点ではこの後、ラウルは一旦諦めて引き下がります。 『もういい それ以上何も言わないでくれ!』 『僕は奴を殺す! 奴を殺す! 神の御名にかけて クリスティーヌ 湖の家がどこにあるか僕に言ってくれ 僕は奴を殺さなければならない!』 「もうたくさん! もうたくさんだ!」 「ぼくはやつを殺す。やつを殺す! 神の御名にかけて、クリスチーヌ、湖の家がどこにあるか、ぼくにいっ てくれ。ぼくはやつを殺さなければならない」 【13章 <アポロの竪琴>・238頁】 “湖の家”に連れて行かれた時の詳細をクリスチーヌが語り、怪人の機嫌を損ねた辺りを聞 いて想像して聞くに耐えなくなったラウルが話を遮った時の台詞。 『私はあなたを彼の呪縛から奪い返す』 『誓いましょう! 私はあなたをこの世の誰も知らぬ片隅に匿す そこまでは彼もあなたを捜しには来ない あなたは救われる!』 『もっと高く!』 『もっともっと高く!』 「ぼくはあなたを彼の呪縛から奪い返すよ。クリスチーヌ、誓うよ! (後略)」 「ぼくはあなたを、この世の誰も知らぬ片隅に匿すよ。そこでは彼も、 あなたを捜しには来ない。あなたは救われる。 (後略)」 「もっと高く!」 「もっともっと高く!」 【12章 <切穴の上で>・203頁】 予定が早まり、ラウルが航海に出るまで残り1ヵ月の約束で、一時の夢、限られた時間の戯れ の婚約をして過ごす二人。しかしラウルは八日目には気力が尽きて止めてしまう。 後日、地上の劇場を知り尽くしているように案内するクリスチーヌがラウルの誓いにそんなこ とが出来るかしらと口にして地下から遠ざかろうと劇場の最上階へ引っ張って行き、ラウルの言 葉を聞いて感情を高ぶらせるがまた不安に駆られたように彼の手を引いて更に屋根下の大梁 へと向かう場面。この後、太陽の下には怪人は出てこないと信じて夕焼けに染まる屋根の上で 会話するが・・ ◆英語だと“I”だから文字にしたら差は無いんだろうけど、一人称が素の“私”になっているチャ ーリーの台詞は特に自身の感情が込められている感じ。 『もっと〜』はレイフロの様子からすると明るく笑う音で応えて言ってみせている感じなのだけど、 原典の台詞は不安と警戒と逃避・・・と小さな希望。かな。 原典では誓いと希望を口にした<ラウル>を<クリスチーヌ>が高所へ引っ張って連れていく のですが、チャーリー(クリス)が誓いと希望(レイフロにとっては夢?)と共にレイフロの手を引い て階段を上ろうとするという二重になっています・w・ “手紙”と“赤の衣装”で、“愛するものの振りをした憎むべきもの”という振りを掛けてる点もあ るんだろか。 (血の汚れを気にしたんだったら黒でも構わないのに)赤を纏い、自身こそがクリスにとっては <怪人>ではないかという自嘲を潜ませているとしたら、承知の上で重ねて「貴方が貴方であ るならそんなことは関係ない」と示そうとするチャーリーの意志と読めるかも。 台詞ではない部分で「酒樽一つ呑み干して来たのか?」と平常心を疑われてる場面もありまし たが。 続く十八章にて、聖書朗誦で血を吐いていた彼を近くに退避させる場面。 どれほどキツいか我が身で知っているから大事に扱ったこともあるんでしょうが。寸前に一連 の遣り取りと告白済みなので、“扮装”を解いているレイフロにも“雰囲気に酔ったわけじゃな くて何時でも貴方は大切です”と仕草で伝えたような気がしています。 |
『クリスティーヌ! クリスティーヌ! ああ! 降りて行きたい! 降りて行きたい! 降りて行きたい!』 全ての出口が閉ざされている 闇の井戸の中へ!』 「クリスチーヌ! クリスチーヌ!」 (中略) ああ! 降りて行きたい! 降りて行きたい! 降りて行きたい! すべての出口が閉ざされている、闇の井戸の中へ! 【16章 <「クリスチーヌ! クリスチーヌ!」>・276頁】 エリックへの最後の歌をと立った舞台から忽然と消えたクリスチーヌを案じるラウルの絶望と 焦燥。 ◆Vasでは、手の中からレイフロを引っ攫われたチャーリーが下水道の網蓋を壊そうとするが、 その背後から聞こえた声は・・・という場面。 ラウルの台詞とモノローグを、チャーリーの状況を代弁するように口にするバリー。 “ゾディクス”呼びなど、揶揄の内だけど一応張り合ってみせている? |
20110828:+0919追記 |
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