Fool's〜の補完とその後にあたる蛇足。宮田視点。宮牧。 完全にラフ書きなのでネタ覚書くらいのつもりでお読み下さい(平身低頭);; |
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聴いたことのある、音がする。 「しろー」 どことなく舌っ足らずな声が、後ろから追っている。 「・・そのよびかたするな。 ぼくがおこられるんだから、ついてくるな。 あっちいけ」 二人だけだからこんな口の利きかたをしても許されると、昔は思ってた。 何だかんだいっても、未だ子供だったから。 「・・・やだ。 しろーと、いっしょにいく」 おとなしくて怖がりの癖に、妙なところばかり意志が強くて。 何故だか、素っ気なくしてもこっそり俺のところに来ようとした。 「あそびにいくんじゃ・・」 「おつかいにいくんでしょ? ぼくは、しろとさんぽ、だから」 嘘言ってないもん、と真面目くさった音程で口にするその傍らには。 ふかふかした真っ白な大型犬。 教会からそれほど遠くない家に飼われていたその犬がとても気に入ってて、 許可を得て時々散歩に連れ出していた。 名前の音が似ているから、犬と同レベルなのかと思ったこともあるが。 それでも、義母が呼ぶのとは違うその音が、嫌いではなかった。 「・・・・・」 「しろー・・」 横まで追いついて。 だめ?という様に、顔を窺う時は怖ず怖ずとしていて。 押しが強いんだか弱いんだか。 「・・・・・・・・・・。 むらざかいまで、だぞ。 そこまでいったら、かえれ。 ・・・まってたりも、するな」 未だ子供だったけど。 “お遣い”は、普通の子供に頼むようなものではなく。 “家”の用事で、形式的な挨拶を兼ねた届け物だったから。 帰り遅くなるかもしれないんだからな、と念を押すと。 「・・・うん!」 引き綱を握り締めて嬉しそうに笑った彼の隣で。 様子を眺めていた白い犬が同意するように小さくわんと吠えて尾を振った。 人前では「しろーくん」と呼んでいたそれが。 もう少し大きくなると一緒に居ることが出来なくなって。 あの日を境に、彼は色々なものに怯えていて。 互いに自分の事で精一杯で。 二人とも“将来”のためにしなければいけないことが目の前に積まれて。 俺が「牧野さん」と呼ぶようになったから。 「司郎君」では応えなくなったから。 彼も「宮田さん」と呼ぶようになって。 何時の間にか、普通の会話が出来なくなってしまっていた。 医者になるために村を出て。 どうしても戻らなければならない時以外は学業を口実にして避け。 それでも。 正式に帰って来た後。 自分から遠ざけた癖に、俺を見ても怖ず怖ずとしかしないその表情と。 「宮田さん」 というその名の重さに今更ながらうんざりするほど気が滅入った。 逃れられないものを否応なしに思い起こさせる、その黒衣も。 そっくりな容貌と、似ていないその中身も、声の音程も。 嫌いなのだと、思い込んだ。 ・・・・・本当は。 俺は、俺が嫌い、だったのに。 鏡を割ればもう自分は映らない。 そうして。 貴方を、壊した。 |
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「みやたさん・・・ 起きてください」 何か呼ばれているような気がするが。 眠い。 「・・・・。 困ったな・・。 え、と。 ・・・しろー」 直ぐ傍で、躊躇いがちに小さく呼ばれた音に。 直前まで浸かっていた夢の中から引き上げられたように浮上した。 「! あ、お、おはよーございます・・ッ」 俺が急に上体を跳ね起こしたせいで、布団の横で正座して驚いた表情で反射 的に固まりながら挨拶したのは。 白いシャツを着て黒いズボンを履いている牧野さん、だった。 一瞬記憶とダブったが、袖を捲くった白い開襟シャツに黒ジーンズ、しかも 裸足というラフな格好はあの装束とは全く違う。 きちんと寄せて撫で付けられていた髪も、やや崩されて額と横に落ち掛かっ ている。 ・・・。 夢と混ざって寝惚けていた記憶がやっとはっきりする。 そうだ。 そうだった。 もう今は、違う、んだ。 「・・・。 オハヨウゴザイマス」 とりあえず挨拶を返すと、少し含羞(はにか)んだ柔らかな笑みが済まなそう に向けられる。 「ごめんなさい、お休みなのに起こしてしまって。 ・・・あの、」 後ろから小振りのダンボール箱を引っ張り寄せると膝に載せる。 「あの、一寸の間だけ、此処に置いてもいいでしょう・・・か」 不安げにトーンダウンする声に、「?」と上体を傾けて箱を覗き込むと。 ぴょこん、と何かが目の前に伸び上がる。 箱の縁に手を掛けてこちらを見上げていたのは、白くてふわふわで黒い目を した子犬だった。 真っ白ではなく、ところどころ淡く薄茶色が入っている。 「ゴミ出しに行ったら、収集所の直ぐ傍に箱が置いてあって・・・その、 と、とりあえず預かって貰えるところ探しますから・・」 あわあわと説明されて、こちらを見て構ってほしそうにしている子犬と、箱 を膝に抱えた彼の顔と視線を往復させてみた。 「・・・・。 飼ってみたい、ですか?」 尋ねてみると、驚愕したように目が瞠られてふるふるふると勢いよく首が左 右に振られる。 「・・え、や、その、 子供の頃から一度飼ってみたいなとは思ってましたけどっ・・その、あの、 みやた、さん・・は犬、あんまり好きじゃないって・・」 前言って、ました、よね・・と消え入るように続けられて。 ああそういえば、そんなことを言ったこともあったか、と思い出す。 大体は自分と家名に寄せられる印象の悪さのせい、なのだが。 こういうことも、そういえば思い込んでいたな、と思う。 でも。 「いや・・ そうでもない、です」 「・・そうなんですか?」 と驚いたようにもう一度瞠られた瞳が、ならよかった、と細められて笑む。 それから真面目な顔つきになって、 「あっ! で、でも家に居るとなると違いますから、無理しないでくださいね」 なるべく早く見付けますから、と箱の中を見遣る姿に。 夢で見た風景を改めて思い出した。 「・・・・。 俺も、『しろ』が好きでした」 小さかった貴方がとても好きだった、俺と一緒に居る時間をくれた白い犬。 こちらを見遣った顔が、思いも寄らないことを聴いた風に小さく口を開けた まま固まって。 さっき夢で見たんですよ、と言い足すと、困ったような表情がくしゃりと笑 み崩れた。 「・・・・えっ、と。その。 どういう顔をしていいのかわからないくらい、嬉しい、です・・」 覚えててくれたんですね、と少し涙ぐんでいる彼と同じ記憶を共有出来てい るその懐かしい温かみが胸に満ちて。 そっと手を伸ばす。 片頬に触れて、頭を少し引き寄せて告げた。 「・・・さっきは寝惚けていて済みません。 おはようございます ・・・・慶」 呼ばれ慣れていないせいもあるだろうが、あっという間に耳まで染まってわた わたしている様子を見てやれやれと苦笑する。 貴方が貴方の声でそう呼んでくれるなら。 それが、自分の名前、だから。 もう鏡は、壊さない。 |
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Fool's〜のその後、です。 一頁目の夢の光景は、Fool's〜のB.side文中にちらと書いてある“子供の頃” の内容補完。6歳前後くらいかな。 SIRENは無印も2も犬が重要ポジなんだよな。 宮田は環境的に動物飼えなかったから、一時的にでも牧野と一緒に大きな犬 ともふもふ出来たらいいなぁ、と(悪くない犬のイメージという意味でも)。 二頁目(この話の現在)は、何らかの形でloop離脱した末のひとつの結末の世界。 (繰り返しによって関係者に記憶が残り始め、馬鹿馬鹿しくなって協力体制を 敷いて呪縛フラグを破壊。 堕辰子にはお帰り戴きました(眞魚岩は次元転移装置ってことで)。 円環になってしまっていたので逆に言うと末尾から冒頭以降に影響を起こせる ので、「これでいいのか?」という意識が血脈にじわじわと波及していって 末尾(ゲーム本編にあたる時期)の頃にフラグ破壊の下地が出来上がっていた、 という感じで。) 八尾(呪縛解けると寿命も尽きる)以外の主要関係者は生き残ってますが反動の 災害で村はほぼ全壊(過去の消失分(※無機物限定。生物は堕辰子の再構築材に 変換された。住民も血脈なので持ってかれてた分寄せ集めれば)も戻って来て 混ざってえらいことに)。 住民は近隣又はツテを辿って其々散開。 双子は、近隣の空き物件だった家に手を入れて留まり、村跡地に異常が無いか どうかの確認、住民間連絡や医療関係など自分達に出来ることをしている(一 緒に住もうと押し切ったのは宮田)。 宮牧的には、loop中にある程度ナニカあったことがあるけど、現在のターンで はまだこれから的。 20140427-28: |
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