!最終章関連につきネタバレ要注意!
とても地味〜な話です。






















[memorize]


 「んー・・
やっぱ まだ一寸遅いな〜」
ソファで姿勢を崩したままこちらを眺めている彼から、既に今日何度
目かの駄目出しが告げられた。
自覚があるそれに溜息をひとつついて、改めて自分の姿を見直してみ
る。
特に何の変哲も無い、探そうと思えばどこにでもありそうなシャツと
ズボンの見た目だが、これは通常の衣類ではなく目の前の彼の纏って
いるものと同様に、私が自身で意図する事で作り出したものだ。
「着てるのを変更するのは余裕なのにな〜
変なとこ不器用だな、おまえ」
俺だって出来るのに!と大真面目な風に言ってから、にっと笑う。
蝙蝠群との相互変化が自在に速く出来ないと、非常時に次の動きに移
る時に難がある、という実際大真面目な問題のためにやっているんだ
が・・・やっぱり、半分面白がってるな。

 あの後、あれこれの事後処理で忙しくし続けていたので、取り合え
ず一日だけ休むことにしたのだが。
後回しになっていた、マスターがよく見せるヴァンパイアとしての動
きについて幾つか尋ねたら何時の間にやら特訓になっていた。
「・・・
着ている物を変化させるのは、普通の着替えみたいな感覚でいいから
問題無いんですが。自分を再構築するのと服を纏うのを同時にやるの
が一寸・・」
「・・んーん、考えない!
覚える! イメージ!」
人差し指を立てて振りながらチッチッと口が鳴らされる。
「“ベースフォーマット”が考える前に再現できるように体感で覚え
るしか無いな。
ま、練習あるのみ!」
目を細めてくっくと笑うと片手を自分の胸元に添えてみせる。
その姿を改めてよくよく眺め遣って、
「・・・貴方が特に変えないときに“大体同じ”感じの格好なのは
そういうことなんですね・・」
身をもって解りました、と額の髪をかきあげながらもう一度深々と溜
息をつくと。
「そーいうこと。
じゃ、・・」
口元がにやと笑って。
「ハイ、もう一度!」
パンと軽く手が打ち鳴らされて、絶対遊んでる・・・と思いながらも
もう一度気を入れ直して練習に取り掛かった。



 暫くして、繰り返しを眺めているだけなのに飽きたのか、
「ハイ、やめ〜。
根詰めてもダメだから、気分転換するか」
少し思案してから、
「・・・よし。
次、単体蝙蝠化、出来るか?」
「・・・・。
やってみます」
群体変化と少々違うので、一応マスターの感覚は聞いてあるのだが上
手く出来るだろうか・・。
ふう、と息を吐いて気分を落ち着かせてからイメージする。
間を置いて、ふっ、と自分の在る位置が変わった感じがして、人型の
状態の胸元くらいの中空に一匹だけの姿で浮いていた。
体感が一気に変化した感じで少しだけバランスを崩しそうになって、
軽く羽ばたいてソファの彼の横に降りる。
「・・・・・
この姿だと、こんなに周りが大きく見えるものなんですね・・」
群体の時は情報が総合されているから少々違うのだが、掌に載る程の
大きさの一匹の生物からすると、部屋の中のものはどれも随分と大き
く見えた。
ソファの座面の高さから見上げる隣のマスターは、遠い幼い頃に傍で
見上げた記憶を少し思い起こさせたが、ふと、とうに忘却の淵に沈ん
でいた別の記憶が浮かんでくる。
「・・・?
どした、クリス。
そんなに違和感あるのか?」
沈黙した私を覗き込んで指先で軽くつつく彼の手を見遣る。
・・・・逆に見たら、このくらいの大きさだったんだな。
「・・・・いえ。
以前、この姿の貴方を容赦なく石床に叩き落としたことがあったな、と。
・・・・・・・・流石に、後で気が咎めはしたんですが・・・。
・・・悪かったです」
驚いたようにきょとんとしてから、マスターは明るく声を立てて笑う
とぽんと自分も単体蝙蝠化して真横に舞い降りた。
「・・・そんなの、俺は覚えてないからたいしたことなかったんだろ。
・・えへへー
蝙蝠になってもやっぱクリスは可愛いな〜ァ」
皮膜翼が腕である蝙蝠だと抱き付くというより抱え込んでしまうので、
代わりにぴったりくっついて頬擦りするように頭を寄せて来るのが慣
れない感覚で一寸落ち着かない。
この姿では声の調子だけで互いに表情がわかりにくいけれど。
多分、マスターの仕草の半分は照れ隠しな気がする。
「・・・そうですか。
なら、よかった」
「うん。
・・って蝙蝠でもやっぱりビミョーにおまえのがデカいのか。
生意気〜・・」
ぶーと文句を垂れてみせる彼に苦笑して、深呼吸すると元の姿に戻る。
「大きさだけでどうこうとは言いませんが。
・・昔、早く大きくなりたかったので、少しだけでも貴方より大きい
のは私は嬉しいんですが・・・・嫌ですか?」
蝙蝠姿のままの彼を見詰めると、一瞬固まった後にぽんと元の姿に戻
ったが一拍遅れて頬と耳が薄らと染まる。
「・・え・・・と
別にいーけど
    ・・・・・なんかズルイ・・」
最後にぼそぼそと口中で呟いて少し困惑したように顔を顰めたが、ふ
と気付いたように顔を上げてこちらをしげしげと眺めた。
そして。
ぐい、と急に腕が引かれて彼の上に倒れ込んでしまう。
「・・っ!
急に引っ張らないで下さ・・」
「あははー♪
まだ・・・もーちょい、もっとちゃんと」
更に引っ張られる。
簡単に落ちる程じゃないが、それ程大きくもないソファの上ではぎり
ぎりの状態で、身体の三分の二程が重なり合う。
じゃれているのか、それとも、と少し鼓動が早くなったが。
仰向けの彼に覆い被さるようになった私の肩を両腕で抱え込むように
したマスターは、ふ、とひとつ息をついてそのまま動かない。
「・・・・・・
・・マスター?」
「・・・・ん。
やっぱ、一寸軽くなったんだなぁ・・」
ああ、私の体重のことか。
「それはまあ、全パーツ外れましたから・・」
自分でも本来の感覚に慣れるのに結構掛かっているくらいだし。
内蔵する都合で金属部位が多かったから、軽量化の工夫はしていたも
ののわかる程度には目方が変わっただろうか。
「生身に戻ったのが目新しい感じで、あんまり気にしてなかったみた
いだな」
いっつも乗っかられてんのにナーと耳元で悪戯っぽく囁かれて、“そう
いうこと”ではないんだが思わず少し赤面する。
「・・・
今も乗ってますが、まだ計量中なんですか?」
言い返してみると、一瞬間を置いて笑う気配で呼吸の動きがした。
「・・・・まだ、このまま。
覚えなおさなきゃ、な」
穏やかな明るさの底に透明の揺らぐ声が、返る。
「・・・・?」
暫くこうしていたい、ということはわかったが。
「・・・・マスター。
どうか、したんですか?」
「・・・・いいや。
もう、なんでもない」
抱え込んでいた腕で、ぎゅ、と一度私を抱き締めると彼は静かになった。
ずっと練習して少し疲れていたので、沈黙に付き合って何時の間にか
うとうとしていたようで、はたと気付くと。
案の定、少し緩んできていた腕の持ち主から聴こえるものは寝息に変わ
っている。
「・・・・。」
やれやれ、とこっそり苦笑混じりの溜息を付く。
元々、私が押すと逃げるのが癖になっているのもあるが、そういうこ
とじゃなくてもタイミング外してくれるからな。
 やっぱり、今の状況が一段落着いて。
・・・・“家”に、帰ってからにしよう。

 あの遥か遠い夜からに比べたら、ほんの僅かなことの筈なのに。
短い間に色々あり過ぎて随分懐かしいもののような気もしてしまう、
あの場所に、帰ろう。
今までと同じで、そうしてまた変わっていくように。
新しい日々を、きっと。



  貴方に
  ずっと、尋きたい事がある。
  それと・・・
  それから








ふと思いついたので。
最終章(三十五章)ネタ踏んで趣味に突っ走った結果
ものすごい地味〜な話に。
文が死滅してるのはもうどうしようもnlll

チャーリーの得手不得手は、ももたま落書[Change!]のと
本篇のあれを混ぜて何となくこんな感じかな〜とw

重量については、筋肉も重いけどレイフロやチャーリーはスレンダ
ータイプだし流石に金属と入れ替わったら減るよね、ということで。

レイフロが「もう、なんでもない」と言ったのは、
落書[幻鏡の刃]で中間描写伏せてある関係で出てませんが、
チャーリーの鏡姿の時に重さまで再現されていて体感まで記憶している自分の執着に
ショックを受けたっていうあたりが前提になってますスミマセンorz
ので。もう、執着しても構わないっていうか素直に好きだと思っていいんだっていう、
そんな感じ。


チャーリーの性格でいきなりあの押し方するって、時間が暫く経って
ることとか発言内容も考えてやっぱレイフロのほうが幾度かタイミン
グ外してたんじゃ・・・と思って繋ぎオチです(笑)。
事後処理中のとある休日の一日ということで。

20130226:



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