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「じゃ、私達一寸出て来るね。ユッキー戻ったら言っといて」
「はいよ。いってらっさいー」
「情人(チンヤン)、待っててね〜」
ゆき姉は何だか仕事関係の連絡で暫く前に何処かへ行ってまだ戻らな
い。 一先ず買い出しにと出掛けた舞耶姉とギンコを見送って振り返る
と、後ろには一応見送りの視線を投げてから再び床に膝をついて資料ら
しき紙やら何やらを一つづつ腕に拾い上げている姿があった。どうもこ
の文字通り“足の踏み場が無い”有様が落ち着かないらしい。
まあ確かにこの間、最初一目見た時は何事かと思った位、舞耶姉の部屋
の散らかり様は見事だもんな。うん。
「周防、ボクも手伝おっか?」
尋ねつつ、何だか良さげなデッキの前に落ちているCDケースを拾って
みる。どうせヒマだしせめても座れる安全区域位は作れるでしょ。
「…」
周防は相変わらずの無口振りでこちらを見て、頷いて見せた。それきり
また黙々と拾っては揃えてゆく。パンフレットにパソコンのプリントア
ウトに原稿のレジュメらしきものに新聞に…。いやはや、んっとにどー
やるとここまで放っておけるんだな…。
「んじゃま、このへんをっと」
足元から取り合えず手を付けてみる。
15分もすると取り合えず紙類は各種纏めて積まれ、他細かい物や服
(…)は一纏めになったのでドアに近い方半分程は一応人が普通に歩行
出来る感じになった。雑巾で空いた床を一応拭いておく。
「ヤレヤレ…」
一息ついてふと周防を見遣ると、彼はまだ地道に窓際の方の残り半分で
落ちている物を拾おうとしていたが何故か止まっている。
「? 周防?どうかしたのかーい?」
停止した背に近寄って覗き込んでみると、彼の膝の先には…あらら。
困惑した風にしている表情の原因は女性用の下着だった。どうやら彼に
は慣れない物らしい。
「舞耶姉…洗濯物取り込んで放ったらかしなのかい」
ベランダを見れば、プラスチックの小型物干しにも何か掛けたままだ。
自分は特に抵抗は無いので、取り合えず拾って他のシャツだの何だのの
固まりと一緒にしておく。
「まだやるのか?周防。 一先ず足場は確保出来た所でいいじゃんか」
な?と言うとこくんと一つ頷いて移動すると、床の空きスペースに座り
込んだ。

雑巾を片付けて、手を洗って戻ると周防が見えなかった。
「アレ?」
よく見ると、ベランダの戸が少し空いて風が吹き込んでいた。
夕風に微かに揺れるカーテンの向こうに、黒白ツートンのセブンスの制
服の影が見えた。
ガラス越しに見てみると、一応置いてあるサンダルを履かずに靴下のま
まで手摺に凭れて外を眺めている。
「周防〜後で入る時脱いどきなよー、ソレ」
「……うん」
一寸呆れた調子に足元を指差して言ってやると、少しこちらを見てぼそ
っと低く答えた周防はまた視線を戻してしまった。片手が弄っていた銀
色のライターの蓋をカチン、と閉じてポケットに戻す。
そのまま、手摺に乗せた腕に顔を伏せる。
さわさわと、潮の香りがする風が彼の栗色の髪を揺らしていった。
喋らないのはいつもの事だが。何だか元気が無い様に見える。
サンダルを突っ掛けてベランダに出てみた。
疲れてるんかな?と‘ミッシェル’口調で明るく声を投げてみる。
「…周防、お腹空いちゃったのかい?
ホラ、きっともう直ぐに舞耶姉と煩いギンコが帰って来るよ。ボクもそ
ろそろ小人さんが鳴きそうだねー」
夕日が落ちかけて辺りは急速に宵闇に覆われつつあった。
影が落ちて周防の輪郭の境目が曖昧になる。
「……」
小さく、かぶりが振られて彼は少しだけ伏せた顔をずらしてこちらを見
た。
「……‥」
何か、言おうとした口元がためらう様に止まって髪と似た明るい茶色の
眸…今は黒く見えるけど…がすいと逸らされた。
「タツヤ?」
どしたん、と隣に寄ると聞き取れない程低く、呟いた。
「………怖くないか?」
「え?」
顔を伏せかけたままぽつんともう一つ。
「夜…眠るのが」
…それって、ドッペルゲンガーのせいかい?
知らない内に自分そっくりの自分が何処かで勝手な事してるとかさ?
聞き返してみると、そうじゃない、と言う。
「………無意識に、自分には普段の自分が知らない多くの自分がいる。
なら、オレが“自分”なのは、“絶対”じゃ無い。
だから…。
目が醒めるまでに、明日自分の目が覚めた時に本当に、この今の自分が
そこに『居る』のかどうかって……」
珍しく長く言葉を繋げていた周防が身体を起こして向き直る。
「………俺は、どう、みえる?
ナナシが言ってた。人は自分で思う自分以外にも、他者から見るそれ
ぞれの数だけあって、結局無数に存在する事になるって。
内と外に数え切れない程あったら、分からないよな…」
少し、苦笑した風に言ってから、ふと我に返った様にいつものポーカー
フェイスに戻る。
「…ご免。忘れてくれ」
ふと弱音を吐きかけたのに気が付いたのか、切り上げて横を擦り抜けて
部屋に戻ろうとする。
オレは動かず、その腕を引っ掴んだ。
「…!」
意表をつかれたのか驚いて見開かれた眸。
それで逃げようってのは甘いな、周防。オレは一応カス校番長。
んでもって、超絶ボーカリストのミッシェル様なのよ。
放っといてくれってのは勝手が過ぎるだろ?
「ばーか。 あのな、人間ってのは一瞬一瞬変動してて、変わりっ放し
なの!だからそんな心配しなくても明日の朝のお前と今のお前は違うし、
さっきと今だってもう違うんだよ。
違くって大丈夫なんだってば。
それとも、タツヤ。明日目が醒めたらオレ達皆の事とかこれまでの事
件のことみーんな忘れて逃げちまうつもりでもあるのか?」
主旨を完全に合わせてはいない返答。だけど………
周防。なぁ、こんなんでもわかってくれるか?
「…………」
彼は暫し沈黙したまま、オレの顔をじっと見ていた。
ややあってから、口を開く。
「…忘れない。………忘れたくない」
瞳がいつもの力を取り戻していた。時々不可思議な眸。
昔から彼の眼差しは人を動かした。
真っ直ぐで、けして器用ではないけど。
「それでいいだろ。明日は明日さ!」
「ん」
頷いて、笑みを浮かべるが今度は照れた風にまた直ぐ戻す。
笑い返して、掴んでいた腕を放して背を叩いた。
一人じゃないんだからさ、疲れたら座り込んだっていいんだよ。
オレでよければ愚痴だろうと泣き言だろうと付き合ってやるからさ。
なぁ…レッド?

「おーい。遅くなってごめーん。今戻ったよーん♪」
「あ、ゆきのさんお帰りー」
「リサも舞耶さんも、何だか色々な荷物だねぇ…。何処買い物に行って
たんだい?」
「おお、帰って来たじゃん。ホラ周防、行こうぜ?」
素直に頷いた彼は、室内に戻ろうと数歩歩いてサッシに手を伸ばす。
ふと、振り向いた瞳。
灯り始めたネオンの反射に、一瞬黄金に光る。
「?」
一瞬のこと。気のせいかと見直した先はいつもの静かなひとみ。
ポーカーフェイス。
「あー、達哉!何してるのベランダでー。材料とすぐ食べられる物買っ
てきたけど何がいい?どうする?」
ギンコの声が掛かって彼は向き直る。
云われたのを忘れずに靴下を脱いで上がって視界から消えたのを見送っ
て、ふと思い出す。
〈あのね、ユウ………っておれ様の同級生なんだけどね、
何だかあのカレと少し似てるよ〉
ゆき姉の元クラスメートで今はタレントをしている青年の台詞。
〈でも何だか…カレは…少し寂しそうだよね。
どしてだろ〉
姉御も君たちもついてるのになぁ?と僅か首を傾げた青年は直ぐに元の
お気楽口調で、なーんてね だーってマイハニーにはおれ様とかいるし
っ♪でっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃー、とかバカ笑いしていて本気
かどうだかアヤしかったが。
(周防は独りじゃない。オレ達がいるよな)
何だかドデカい事件から逃れられない日々だけど。
きっといつか、全てに片を付ける日が来るさ。
その時まで、ずっと一緒だ。
そして、それからも、きっと。

…やっともう一度、出逢えたんだから。


すっかり陽が落ちて暗くなったベランダを後に、明るい室内で戸を閉
める。
「ええ?アンタもそっちにいたの?!
ちょっと情人!パンツと何仲良く夕暮れのベランダになんかいたのよー!
どうせならそんなのとじゃ無く、わたしと後で夜景デートしよっ」
「ハハーン、羨ましいかギンコ。しっかり語りあっちゃったのさ!」
「なにー!」
「……」
「はっはっは、賑やかよねー♪」
相変わらず泰然としている舞耶姉と呆れ顔をしつつ食材を検分している
ゆき姉。ギンコも毎度の調子。
どうにかなるに決まってんじゃないか。このメンツ。
明日は明日の風が吹く。

未来は『未定』だ。

そう信じたオレの影で遠く、誰かが嘲笑ったのだが。
誰も、気付きはしなかった。
背の向こうに昇った…月以外は。


了.
20001104SN:








その昔唯一書いた、
行き当たりばったりな 似非(×3)ペル罪落書き です。
偽過ぎて改定不能につき・・・・・(ガクリ)。
本来は縦打ち仕様なのですが、電網仕様だと普通にタテは出来ない?ようなので横で。
書いてみて・・というか書こうとして判ったことは、二人とも口調が掴みにくいことと、栄吉については自称だけでも
ボク・オレ・俺の三表記で難。で、更に中々喋らないので行動表記になるタッチーこと周防も難。
ということで、この二人は非常に好きですが難度が・・・;
と当時の後書きメモに泣き言が記してあります;(トホホ;)
そして罪落書きなのに、当時朧気伝聞のみだった罰が踏まれているのが謎(苦笑;)。

■タッチーの躊躇→1が母親絡み傾向だった為か2罪は父親絡みネタが全員?(ゆきのさんとりあえず除き)

という状態でしたが、そのうちでも母親の影が見えないのが周防家。克兄の口煩さといい、昔に亡くなっているか
不在な印象だった為、公式設定上違うらしいですがうちでは幼時に亡くなっているものと想定しておりました。
克兄は汚名事件頃中→高校生時分なので、某グリーンウッドの蓮川兄みたいなかんじで以降面倒をみたということに。
・・・というわけで見慣れてないという、仮想定前提につき。
栄吉はゲーム中で某ロッカー室の台詞がありますのでサッパリ抵抗がないものと見ております。
<「こっちは寄せて(以下略)」

服装一般一通り判るのかも?


■ユウはうちのペル1主人公の呼び名です。読みそのままなので通称じゃないやいというソレ(笑)。
1ではブラウンが呼びますので、なんか独特の音程で呼んでそうかなという感じで。
■達哉のコールはデフォルト「タッちゃん」ですが、1に倣って「タツヤ」になっているため準じておいてみました。
「タッちゃん」もかわいいけど。2罪では栄吉の為の呼称設定ぽいですが謎の露天商もコレで呼びますね;笑
■うちのペル主人公は二代して『目指せホークアイ(聖剣3)』なパラメータ(TEC再優先)のペルソナ使いなので
先代ユウ程ではないけど
タッチーもそんな感じ。一応STR方面も振ってますが。
■タイトルは…テキトーに付けておりました。一応「警告」。



戻ります。


※ネタ元原典:『ペルソナ2・罪』(ATLUS)。 勿論ですが個人的なお遊びの落書きにつき、ネタ元の製作会社等には無関係です。
いつかの記憶。