「見えない封印」(END後設定)の更に後日談的蛇足。ネタ覚書的ぐだぐだ。
マジでなんでもいいというかた向け。  ネタバレ要注意。











 暦的には初夏に入る頃のこと。

 手紙が届いてるわよ、とベリルさんに電話を貰って受け取りに行くと、
それは一通のエアメールだった。
ドイツのあの町からで、差出人はシマンとなっている。







 あの事件の後、サントさんが助かっていたと知ったシマンさんはそれこそ
仲間内のことくらいに安堵していたが、片腕を失っていたこともあって手放
しでは喜べずに凄く複雑な顔をしていた。
それでも、俺がサントさんを連れて入院中のガラナちゃんに改めて挨拶に行
くと、まだ青白い顔に薄っすら血の気を上らせて嬉しそうに笑ってくれたの
は俺も嬉しかったけど、シマンさんは心底ほっとしたようで病室の外で声を
抑えて滂沱していた。
 ロンドンに帰ってからも、俺たちの調子を気に掛けるメッセージがグリー
ティングのように数カ月間隔で不定期に携帯に届いていたんだけど、そうい
や、それ以外での連絡先は事情知ってるベリルさんちにとしたままだった。
 ・・・ブルースにも、前こんなんで手紙届けて貰ったっけなぁ・・。





 夕飯の支度を終えてからベッドに転がって封筒を開けてみると、中には綺
麗に畳まれた数枚のエアメール用の薄い便箋と、もうひとつ小さめの封筒が
入っている。
なんだろう、と小さめの封筒を手に取ってみると、俺の名前が表に宛て書き
され裏にはガラナちゃんの名前があった。
お、手紙書いてくれたんだ、と思いつつ、まずはシマンさんの手紙を広げて
みると、結構几帳面な文字で礼と簡略なあちらの近況と、恒例のこちらの調
子を尋ねる文章が綴られ、最後に、一緒に娘の手紙を同封したので差し支え
なかったら紙の手紙で返事を送ってやってくれないかという旨の丁寧なお願
いで締め括られていた。


 シマンさんの手紙を畳んで小さめの封筒を開けると、こちらもエアメール
用の薄い便箋にまだまだ子供らしい文字が並んでいる。
こっちも英語で書いてくれているのを有り難く読んでみると、少し前に俺が
サントさんとベリルさんを巻き込んで作って送った焼菓子のお礼と、もう健
康状態には殆ど問題無いことが一所懸命に綴られていて感慨深くほのぼのす
る。愛犬のコーラも元気らしい。
あれはベリルさんちで作ってそのまま送ったし、シンプルなメッセージカー
ドだけ入れたから引っ越したの知らせて無かったのだ。迂闊。
 お菓子を贈ったのは、良い思い出でカバーするのって大事だよねと自分が
しみじみ思ったことと、あの時折角のハロウィンだったのに子供のガラナち
ゃんにまともにお菓子プレゼント出来なかったなぁって思い出して心残りだ
ったこととかが理由なんだけど。
宿屋の子らしくちゃんとそれぞれのお菓子の味の感想と共に、パパと二人で
大事に食べたよって可愛い落描きを添えて書かれていて嬉しい。
 それから、

『あの時とっても気に入ってくれたうちのポテトサラダ、もしも可能だった
ら、また食べて貰いたかったんだけど・・
事情があって、此処にはもう来れないんだって言ってたってパパから聞いた
から。二人で相談して(あ、コーラもね)レシピの写しをプレゼントしようか
なってことになりました。パパはこの手紙に一緒に同封するか?って言った
んだけど・・・
任せてくれるっていうからよーく考えて。
もしご迷惑じゃなければ、私がもうちょっと大きくなったら、レシピ持って
会いに行ってコツと一緒に教えてあげたいと思いました。
元気になったよありがとう、って、直接お礼が言いたいです。
    本当に、本当に、沢山ありがとう!

 あのひとにも、従姉のお姉さんにもありがとうと伝えてください』

後は〆の挨拶が書かれて終わっていて、もうひとつ、
ガラナちゃんによく似た銀髪の女性を交えた記念写真を手に持った、笑顔の
ガラナちゃんとシマンさん、コーラが宿の前にいる写りの良い写真が一枚同
封されていた。

   ・・・・・・うう。涙腺が。涙腺が・・・  嬉しいからいいけど。






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